アルテグラR8100シリーズを試乗インプレッション〜その真価は?

目次

シマノ・アルテグラR8100シリーズの真価【試乗インプレッション】
  • text 吉本 司
  • photo 長谷川拓司
  • movie 長谷川拓司

Presented by SHIMANO

デュラエースと同時に発表されたシマノのロードバイク用コンポーネント「アルテグラR8100」シリーズ。1975年に発表された600シリーズから数えて通算11代目となるセカンドグレードは、趣味としてロードバイクを楽しむサイクリストに対して、新たな等身大の価値を示した。今回は改めてじっくり試乗を行い、その価値を確かめることにした。

シマノ・アルテグラR8100シリーズの真価【試乗インプレッション】

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アルテグラR8100シリーズの特徴

アルテグラR8100シリーズの特徴

アルテグラR8100シリーズの特徴は、既に本サイトをはじめ各所で伝えられていると思うが、試乗レポートの前に改めてそのコンセプトや特徴をざっとおさらいしてみよう。

コンセプトはデュラエースR9200シリーズと同じく“SCIENCE OF SPEED”

基本設計は新型デュラエースが掲げる“サイエンス・オブ・スピード(SCIENCE OF SPEED)”を踏襲するが、より広範な用途とライダーに快適な性能・仕様が追求された。変速システムは、ワイヤレス式のDI2のみとして性能を先鋭化。新設計のギヤシステム「HYPERGLIDE+」(ハイパーグライドプラス)との組み合わせにより、変速スピードは大きく向上している。さらに優れた操作性とエアロポジションをもたらす新設計のSTIレバー、ブレーキ性能は強化され、ホイールも一新。12速化にギヤレシオがよりワイドになったのもうれしい変更点だ。

ワイヤレス化によりクリーンなコクピットまわりを実現

アルテグラR8100のワイヤレス化を果たしたコクピットまわり

速くて安定した変速性能を届けるために、電動変速のDi2はバッテリーと前後ディレーラーのみ有線接続とするワイヤレスの形をとる。さらに従来のDI2で“頭脳”とされていたジャンクションAの機能はリヤディレーラーに内蔵。これらによって前作のSTIレバーで存在していた電子ケーブル、ジャンクションAは消えて、ハンドルまわりは圧倒的にクリーンになった。また、断線などの心配から解放されるのもうれしい。

12速化し、より幅広いギヤレンジを網羅

12速化したアルテグラR8100のスプロケット

シマノ・CS-R8100(価格:1万2705円)

アルテグラR8100シリーズのクランク

シマノ・FC-R8100(価格:3万4881円)

新型アルテグラは12速化に伴い、これまで以上にワイドなギヤレシオを獲得しているのも大きな魅力だ。歯組構成はフロント側が52×36T、50×34T、リヤ側は11-30T、11-34T。最小ギヤの組み合わせは、1:1の比率まで高められた。ツーリング車にも迫る程の軽いギヤ比によって、あらゆる地形で快適に走ることが可能になり、なおかつライダーのレベルも問わないオールマイティなコンポーネントへと進化を遂げている。

大幅な変速性能の向上

アルテグラR8100のリヤディレーラー

シマノ・RD-R8150(価格:4万5276円)

アルテグラR8100のフロントディレーラー

シマノ・FD-R8150(2万8413円)

より速く正確な変速性能を追求したのはR8100シリーズの大きな特徴だ。ワイヤレス化で心配される信号の送受信の速度や精度は、独自のICチップの開発により、セキュリティを保ちながら高速処理と消費電力の低減に成功。これにより変速機の自体の動きも速くなり、新開発のギヤシステム「ハイパーグライドプラス」との相乗効果によって、変速スピードは従来の約2倍を実現。さらにスムーズでストレスのないライディングを可能にした。

ブラケット形状の刷新でよりフィット感と操作性が向上

アルテグラR8100のブラケット正面

アルテグラR8100のブラケット側面

シマノ・ST-R8170(価格:4万8395円 ※左右セットの場合)

ワイヤレス化を受けてSTIレバーのブラケット形状も刷新され、使い勝手が向上している。ブレーキブラケットとハンドルの空間は4.6mm広がり、この部分にしっかり指を3本入れて握ることができ、安心した握り心地を追求。一方、先端部分は内側に入る形状として、エアロポジションが確保しやすくなった。変速スイッチについてはその位置を5.1mm上側に移動し、ドロップ部を握った際のアクセス性を向上。押し間違えを低減するために、変速スイッチのオフセット量も外側に増やしている。

より最適化されたブレーキ

アルテグラR8100のブレーキ

シマノ・BR-R8170(価格:フロント用 9471円、リヤ用 8894円)

アルテグラR8100のブレーキローター

シマノ・RT-MT800(価格:5675円)

ディスクブレーキは、より扱いやすい仕様へと進化を遂げた。ブレーキパッドがローターをつかみ、ブルブレーキングに至るまでの「コントロールエリア」を13%拡大して、よりコントロール性に優れた制動特性を追求。フルブレーキング後に発生しがちなディスクローターの軽微な接触は、旧型からパッドとローターの間隔を1割以上増加して低減することに成功した。キャリパー本体はコストと性能のバランスを重視して2ピースタイプだ。

ホイールセットの刷新

シマノ・WH-R8170-C50

シマノ・WH-R8170-C50(価格:フロント 7万2600円、リヤ 8万4700円)

シマノ・WH-R8170-C50のハブ

シマノ・WH-R8170-C50の前後ハブ

ついにアルテグラにフルカーボンホイールが登場した。チューブレスタイヤ対応、36mm、50mm、60mmのリム高、内幅21mmのワイドリムなど基本設計はデュラエースを継承するが細部が異なる。リムは素材と細部の形状に違いがあり、スポークパターンも60mmのみ固有だったものが全てのハイトで統一。フリーボディの内部構造は「ダイレクトエンゲージメント」ではなく、トラディショナルな爪を用いた。前後セットで15万円台の価格も注目だ。

アルテグラR8100シリーズ インプレッション〜ベターからベストな選択へ〜

自転車ジャーナリスト吉本司がアルテグラR8100シリーズをインプレッション

インプレッションライダー/自転車ジャーナリスト・ 吉本 司。今年で自転車歴38年となるフリーの自転車ライター。アルテグラグレードのコンポは、1980年発表の「600AX」から現行R8100シリーズまで、所有もしくは試乗経験がある。

ひと昔のアルテグラといえば「問題なく使える」セカンドグレードという印象だったが、それもDI2が登場した6800系を境に「これで十分だ」という声が聞かれるようになった。以降レースを走るようなシリアスなロードサイクリストやベテランの間でも、アルテグラのユーザーが増えていった。

そして、今回のR8100シリーズは、ライドシーンが多様化し広範になったホビーサイクリストの要求に対して、今まで以上に寄り添うような性能と仕様を備えて、さらなる魅力を生み出している。

注目点の一つである変速性能は、ディレーラーのレスポンス向上に「ハイパーグライドプラス」が伴うことで前作よりも圧倒的に速く滑らかになった。特に利益を得られるのは上りだ。急登や長い上りでは、進むにつれて速度とペダルケイデンスが下がってゆき、変速に不利な状況となる。そんなときでもチェーンは滑るようにギヤ間を移動し、さらに足へのショックも抑えられているので変速時のケイデンス低下はなく、走りのテンポも損なわない。

昨今のフレームは高剛性で、特にホビーレベルのライダーが上りでその性能を享受するには、軽めのギヤでケイデンスの維持を心がけて走る必要がある。新たに34Tのローギヤを備えて最大1:1のワイドなギヤ比になったのも、上りをより快適に走る仕様であり、R8100の変速性能はそれを最大限に生かしてくれるのだ。

そして当然ながらこのワイドなギヤ比は、ある程度のグラベルライドも許容する。30Cクラスのワイドタイヤがデフォルトとなり、走るフィールドを広げた最新ロードバイクの設計にもマッチする。荒れた路面でもスムーズな変速は走りを後押ししてくれる。

良い意味で予想を裏切られたのがシンクロシフトだ。今回はセミシンクロのモードで試乗を行ったが、ある程度乗り込んでシンクロシフトが発生するタイミングを覚えていれば、前作のような大きな違和感を抱くことはなかった。ブルベのような超ロングライドに挑むと、その終盤は変速操作も嫌になるくらい消耗するが、本作の性能ならそんなときにも使ってみたいと感じるほどだ。もちろん改良の余地はあるとはいえ、シンクロシフトへの評価は悪いものではなくなった。

変速と同じ、もしくはそれ以上にライダーメリットが多いのは新型ブラケット形状だ。特にホビーサイクリストの場合、ライドでこの部分を握る割合は90%以上だろう。それだけに非常に重要な部分となる。エアロポジションをとりやすくした先端形状も効果的だが、ブラケットのスイートスポットが広がったことが最大の利点だろう。握ったときの安定感と握り方のバリエーションが増えたことで安心感と快適性が圧倒的に向上している。手の大きさにより好みは分かれる部分もあるが、標準的な手の大きさの筆者が考えられる握り方では、いずれも良好なものだった。

安心感という点においては、ブレーキ性能もより頼れる存在となった。パッドがローターに当たってからのフィーリングはサーボウェーブがしっかり利いているような感覚で、レバーの握り込みに対して制動がしっかり立ち上がってくれる印象だ。より制動感を増しつつもコントローラブルになって扱いやすさが増している。改良されたパッドとローターのクリアランス向上もその効果のとおりで、ハードブレーキング後のシャリシャリ音が聞こえてくることもなかった。

ホイールはデュラエースでも驚かされたが、アルテグラも見事な走りだ。C50を試したが、その加速性能はデュラエースの8割5分から9割を実現しているだろう。脚当たりの良さや乗り心地といった面でも遜色はなく、加速性能と快適性のバランスに優れていて実に扱いやすい。15万円台という価格を考えるとコスパは完全にアルテグラであり、同価格帯のライバルを蹴散らすには十分な性能だろう。

アルテグラが新型になるたびにデュラエースとの性能差について論議されるが、もはやそれはないに等しい。あるのはフィーリングの部分だ。変速スピードは変わらないがアルテグラの方がチェーンの移動にややとげとげしさがあり、ブレーキはデュラエースの方が制動のリニアさが感じられ、レバーの引きもダイレクトな印象だ。これらは使われる素材や表面処理などに起因するものだろう。

確かにデュラエースの方が操作する気持ち良さは上回る。ひと昔前はこの部分の差は大きかったが、それもR8100ではとてつもなく小さいものになったと感じる。最も大きな差は、約300g重い重量だ。

前作のR8000/R8050シリーズが登場したのは2017年。それからおおよそ5年あまりでロードバイクのマーケットは激的に変わった。グラベルロードが人気を集め、ディスクブレーキと太幅タイヤが主流となり、スペシャライズド・エートスのような“争わない”レース系バイクも登場した。ホビーサイクリストの遊び方はレースを片隅に追いやり、サイクリングという価値観が復権した。それと同時にロードバイクマーケットは、レースを頂点とした垂直方向の価値形成が限界を迎えた。

そんな時代のロードコンポに真に求められる価値は、レースに特化したものではなく、広範囲にロードライディングを楽しむことのできるものだ。そうした意味においてR8100シリーズにある無理を強いることなく走りを楽しむための機能と性能は、的確に今の時代にフォーカスしたものと言えるだろう。

常にアルテグラのプライスパフォーマンスはシマノのロードコンポで最も優れたものだが、R8100はさらに縮まったフラッグシップとの性能差、ロードバイクを取り巻く価格高騰化という問題によって、その長所はさらに価値を持つことになった。かつては「納得の妥協」として選ばれたセカンドグレードだったがR8100シリーズは違う。もはやその価格や価値を見てもホビーサイクリストの等身大の高級品であり、“アルテグラで十分”ではなく“アルテグラがいい”とか“アルテグラで良かった”という存在に進化したのだ。

アルテグラR8100シリーズのスペック

アルテグラR8100シリーズ一覧表

アルテグラR8100シリーズ一覧表(油圧ディスクブレーキ仕様9点セット)

アルテグラWH-R8170ホイールシリーズの一覧表

アルテグラWH-R8170ホイールシリーズの一覧表

新型アルテグラのラインナップは、ワイドレシオの歯組構成、新たに加わったパワーメーター搭載のクランクセット、チューブレスタイヤに対応する3種類のカーボンホイールなど、幅広いライドシーンに対応するものだ。ディスクブレーキ仕様だけでなくリムブレーキも用意されるので、このタイプのフレームを乗り続けたいサイクリストも安心だ。価格は従来から値上がりしたとはいえ、その仕様と価値を考えれば十分に納得できるだろう。