オリンピック『伊豆MTBコース』で、実際に走った山本・今井にコース攻略法を教わった

目次

浄蓮の滝のAラインを走る山本幸平さんとそれを見守る参加者

『浄蓮の滝』のAラインを走る山本幸平さんとそれを見守る参加者

2022年3月6日。東京2020オリンピックのマウンテンバイク競技で使われた『伊豆MTBコース』を一般ライダーがトレーニングの一環として走るイベントが開催された。『伊豆MTBコース・トレーニングウィーク』という、2022年3月1日から6日までの間に行われた、静岡県が主催する一連のMTBトレーニングセッションである。

 

どこを見て走るべきかを伝える山本さん

このコースを走った、東京五輪日本代表の山本幸平さん直伝! いくつかのラインの中から、どこを見て走るべきかを伝える

 

MTB五輪コースを走れる機会『トレーニングウィーク』

2021年7月末に開催された、東京2020オリンピックMTB競技。世界最高峰の選手を決めるに相応しい舞台となったコースが、静岡県伊豆市に遺された。2022年3月18日より再開業する『日本サイクルスポーツセンター』内にある伊豆MTBコースは、MTBのXCO最高峰の競技、オリンピックのレガシーとして、この先も残されていく予定だ。

どのような形になるのかはまだ未定だが、その第一歩としてのライディングスクールが3月1日〜6日にかけて行なわれた。静岡県が主催する、MTBオリンピックのレガシー企画、「トレーニングウィーク」だ。

 

小林可奈子さんと井手川直樹選手

『天城越え』のラインを伝える小林可奈子さん(右)と井手川直樹選手(右から2人目)

 

6日に行われた、実際のオリンピアンに聞く、オリンピックコースの攻略の日には、このコースで東京2020オリンピックを戦った男女日本代表オリンピアン山本幸平さんと今井美穂さんを講師に招いた。そこにアトランタ1996五輪MTB代表の小林加奈子さん、ダウンヒル選手の井手川直樹選手、九島勇気選手が合わり、分担してコースの難セクションの走り方を参加者に伝えた。

 

名実ともに世界の最高峰、東京2020の『伊豆MTBコース』

マウンテンバイクMTBのXCO=クロスカントリー・オリンピック競技は、その名の通り、オリンピックをその頂点とする。東京2020でその舞台となった伊豆MTBコースは、コースは1周約4km、高低差は約150mほど。コンパクトな敷地内に作られた激坂上りと岩場下りが印象的な、世界最高のMTBコースだ。

中でも高い走りの技術が求められる8か所の、セクションは、日本の伝統文化と伊豆の景観がデザインされた厳しくも美しいもの。今回はこのうちの3か所、レースラインの走りをスクーリングした。『天城越え』、『枯山水』、『桜吹雪からのウェーブ』である。

 

サクラドロップを飛ぶ九島勇気選手

富士山をバックに桜吹雪のサクラドロップを飛ぶ九島勇気選手

 

コースの実際の走り方のコツ、見ておくべきポイントと、安全で速いラインを、実際にレースで走った山本さんと今井さんが伝えていく。参加資格が日本のレース、トップカテゴリーに出場している選手であるのが条件だから、参加するみな、真剣である。世界のレベルの高さを体で実感した選手たちは、1セクション30分ほどの練習時間の中で、繰り返し走ることによって、メキメキとその走りの滑らかさとバランスを増していった。

 

『天城越え』『枯山水』『桜吹雪』を走るコツを伝授

『天城越え』は、スタート直後に急坂を駆け上がり、その岩の峠を越えるとそこから岩の合間を一気に下る。伊豆の難所と言われた天城越えの旅路が名前の由来だ。

 

天城越え

橋の下から突然の激坂が始まる『天城越え』、どこまで足を付かずにいけるか

 

全身の力を使って上り切ってから岩場のラインを選んで下っていくところに、テクニックを超える集中力が必要とされる。「前後のライダーがいる想定で走るので、ラインはほとんど選べないと思った方がいいです」(小林可奈子さん)。

 

浄蓮の滝

滝を流れる水のように走り降りてくるのが最高のイメージである

 

『浄蓮の滝』は、大きな岩の間を急激に下りるセクション。ラインの判断力と瞬発力が試されるエキサイティングな難所だ。ここはテレビでも映った、とてもドラマティックな部分。走っていると見えないラインを信じて走っていくと、きちんと走り切れるという作りにライダーは感動もしていた。
「心拍が上がった状態の中で、下りを攻めていくという感覚を体感してほしい」(山本幸平さん)。

そして『桜吹雪』、通称サクラドロップのここはコース一番の見どころだ。落差1.5mある。切り立った岩の上から桜が舞うように降りていく。ラダーの上が走りやすいが、意を決して岩から飛び出すと ふわりと着地する作りになっている。この先にある四つのふわふわとしたジャンプも気持ちよく、コーナーの上り返しでのGの力がすごかった。「カカトを下ろしておくのを意識すると、コブなどでとっさの時に足が弾かれにくいです」(九島勇気選手)

 

サクラドロップのアドバイスをする今井さん

ドロップで桜のように散らないように、手前でどこを見て、何を目指すか、を伝える今井さん

 

MTBオリンピックコースを走った参加者の声

今回のトレーニングウィークの本番とも言える、この日のオリンピアンによるコース指導。この参加資格に、日本自転車競技連盟の登録競技者であることが含まれていた。つまり参加した方々はすべて、レースに真剣な方々だったのだ。

経験で走る妙齢のライダー。若さとバランスで走る10代の新世代ライダー。さまざまなスタイルと楽しみ方の乗り手がいたが、皆がすべて「速くなりたい」との気概で講師陣の教えを柔軟に受け止めていた。3人の参加者に話を聞いてみた。

 

●川村 誠 さん

川村誠さん

川村誠さん、マウンテンバイクレースが大好きだ、と言う気持ちが伝わる走りでした

 

オリンピックのコースがインターネットとかで、えげつないコースだって見ていたので、そういうコースを走れる機会だと参加しました。

トップライダーの日本とか世界で活躍されている方からレクチャーしてもらえる機会も、このコースに限らず全然ないので、単純にテクニックを上げるという意味でも、すごく分かりやすく解説してもらえてタメになりました。

しかもやっぱり、オリンピックで世界の選手が走ったコースを走れたって思い出にもなりました。普段マウンテンバイクのレース出場しているんですが、レースで成績向上を狙ううえでも、役立つことを色々学べました。

 

●嶋崎 亮我 さん

嶋崎亮我さん

嶋崎亮我さん、16歳の高校生はテクニックもあって脚もあって見ていて頼もしい

 

今、国内にあるコースの中で上りが急で短くて、かつ下りもすごく世界最高峰なみに本当に荒れてるコースなので、周回するとなると、結構かなりハードなコースだなって印象を受けました。

今まで走った国内のレースよりも、難易度が全然高く、こういった岩のセクションの下りであったりっていうのは初めてだったので、過去走ってきたコースの中でも一番難易度の高いものだったと思います。講師の方たちのライン取りの説明などを含め、それで攻略できました。

 

●青木 寿美恵 さん

青木寿美恵さん

青木寿美恵さん、走るたびに着実に限界を上げる走りが印象的でした

 

やっぱり難しいと思っていたんですけど、実際に思った以上の難しさのところと、大丈夫なところと、それぞれありました。そこが勉強できてよかったです。印象に残ってるところは、最初、天城越えからまわったんですけど、そのライン取りが難しかったです。

男子も女子もオリンピックの動画を見てきて、『このラインならいけるかも』って見ていたんですけど。実際は、そのラインは、教えてもらったラインとは違っていて。その世界のトップライダーの選手が走るラインと、私たちができるラインとは別物でした。まずはここを走るのが安全ですよ、と教えてもらえました。

 

このコースで走ったふたりは今どう思う?

世界最高難関のコース、新時代のコースなどと言われ、実際にオリンピックを超えて時代をまたひとつ動かした伊豆MTBコース。この他に類を見ないスタイルのコースに驚き、少しずつ攻略し、全力で戦った、東京2020オリンピック代表の2人に、コースに初めて接したときの驚きと、レースが終わった今走って思うことを伝えてもらった。

 

【講師・山本幸平さん】

山本幸平さん

山本幸平さん、東京2020 男子MTB XCO 29位、北京2008 男子MTB XCO 46位、ロンドン2012 男子MTB XCO 27位、リオ2016 男子MTB XCO 21位。東京2020を機にMTB選手を引退

 

これまで4度のオリンピックに出場した山本幸平さん。その最強であり続けたキャリアの最後を東京2020五輪という母国最高の舞台で締めくくった。全力を尽くし、尽くし切ったこのコースを使って、彼を目指す後続に何を伝えるのだろう?

――このコースを初めて走ったときの印象は?

やっぱ難しいなあっていうか、こんなテクニカルだし、上りも急だし、まあ、東京オリンピック、これかあと思いましたよね。

――そのコースにどう合わせていった?

上りは結構短い上りが比較的多くて、短くて急坂が多かったので、もう本当に踏み倒せるパワーをつけるっていうのが、まあ、結構重点的に考えたところでした。上半身の強化もしたんですよね。

あとは下りのセクションも、もう今までなかったぐらいのテクニカルな、スキルも必要になってきたので。ジャンプの練習とかも取り入れ、バイクのセッティング、ドロッパーポストを取り入れて、サスペンションや空気圧のセッティングも、今まで以上にシビアに対応してきました。

 

参加者にレースでの走り方を伝える山本さん

『枯山水』の前で、参加者にレースでの走り方を伝える山本さん

 

――今、改めて走ってみてどう思いますか?

やっぱり、このコースいいなと思いますよね。ここでしっかりと練習できる環境があれば、日本にいながら世界の走りができる。

世界級のコースとかもなかなかない中で、ここが実際にあるので。ここでまあしっかりともがき倒しながらのテクニカルな下りっていうのを経験していくことで、体の持っていき方というか。

やっぱりクロスカントリーなので、一時間半走らないといけないっていうところが難しいですが、これが経験できるので。そのイベントとして、どんどん継続して欲しいですね。

――今日は特にどんな点を教えていますか?

まずは大怪我をしないっていうところが大前提で、一番の目的は、一回このコースを見てもらって、知ってもらって。こういうコースなんだ、こんなにスキルが必要なんだって知ってもらった上で、その宿題をちゃんと持って帰ってもらうことです。

それでしっかりと、秋にあるレースに向けて、それぞれのトレイルとか練習環境でスキルを磨いてきて貰いたいなと思っています。

 

【講師・今井美穂さん】

今井美穂さん

今井美穂さん、東京2020女子MTB XCO 37位。MTBレースを東京2020を最後に引退

 

小学校教師を続けながら欧州MTBレースを走ってポイントを重ね、実力と戦略ともに東京2020五輪代表の座を掴んだ今井さん。レースまでにこの世界最高のコースに全力をかけて合わせて本戦に臨んだ。

――このコースを初めて走った時に感じたのは?

こんなところ走れるわけがないという絶望感でした。でもそれを攻略できるようにトレーニングすれば、できるようになるとも思ったので、なんかこう課題が見つかったという感じでした。

――どんなことをして順応しましたか?

『桜吹雪』で言えば、1.5mぐらいのドロップオフを飛ぶために、スモールステップをかけて、ダウンヒルの人たちにこう教えてもらって、ジャンプの基礎から教えてもらって。

で、そこに合わせてオリンピックに向けては、(鈴木)雷太監督にジャンプ台を作ってもらったりして。本当に皆さんに、飛べるように30cmの段差から50・60・80、1mっていうふうに。その場、その時、その場で自分の技量に合ったレベルのものを準備してもらって。できるようになっていったのは、今も忘れられないですね。

 

今井さんと九島選手

今井さん(左)と九島選手(左から4人目)がサクラドロップの着地点を伝える

 

――今走ってみるとどんな気持ちですか?

さっきもコース走ってみて思ったのが、できるようになったことって、自分の体に染み付いていて忘れないんだなってことでした。久しぶりに走ったんですけど、でも、忘れていない。やっぱり一度できた事って、もうずっと必ずできるんだなって、嬉しかったです。

――今日のスクールで伝えているのは?

このコースのことを知ってもらう、それだけで今回はもう充分だと思うんですよね。日本にこれまでこういうコースがなかったので、皆さん今日ここに来ていただいた方々は、なんか、こんな練習も必要なんだっていうのを理解してもらったと思います。次の秋にあるっていうレースに備えられるんじゃないかなって。たぶん、私と同じ気持ちでステップアップしていけるんじゃないかなって思います。

こういう機会があったら、オリンピック前に本当にこういう機会あったら良かったなと思って思いました(笑)。経験ってやっぱり大事ですから。

 

今井さん

小さなステップから繰り返し大きくしてくことが大事だと今井さん(右)は自身の体験から振り返る

 

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このコースの次回の解放日はまだ予定にないが、静岡県の担当部門によると10月にここでレース開催を考えているという。「日本にこれまでなかった」と、参加した誰もが口にしたこの世界最高のコースが、次に走れるようになる機会をぜひ期待したい。

 

「トレーニングウィーク」のホームページ

 

浄蓮の滝のラインを伝える山本さん

『浄蓮の滝』の一番速くて楽なラインを伝える山本さん