猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第6回

目次

猪野コラム no.6

陽気に振る舞う筆者。しかし内面は不安でしかない。

佐渡島で出会った激坂

世界にはたくさんの激坂と呼ばれる坂がある。私の中で激坂とは勾配20%を超える坂の事だ。それ以外はただの坂。

さすがに勾配が20%を超える坂となると、そうそうあるものではない。有名なのは大阪の暗峠。埼玉の子ノ権現。これらは40%近くの激坂だ。

しかし金山で有名な佐渡島にも激坂が存在したのだ。チャリダー坂バカ部で参戦した佐渡金山ヒルクライムで、私は新たな激坂と出会う事になったのだ。

初めて参戦するヒルクライムは動画サイトを見てコースを把握する人は少なくないだろう。私も佐渡金山ヒルクライムの動画をチェックした。その時、私は少し違和感を覚えた。画像に表示されているパワーと速度が一致しないような気がしたのだ。

随分体重の重い人がこいでいるのだろうか?パワーがやたらと出ている。この違和感の謎は現場に行ってすぐに解る事となる。

猪野コラム 第6回

移動中のフェリーで撮影に挑む「坂バカ部」の面々

激坂と坂バカ

レース前日 新潟からフェリーに乗って坂バカ部は佐渡島に降り立った。
レース前日ではあるが軽めにコースを試走する事になった。

スタートしてから観光名所の佐渡金山跡までは平坦基調だ。
しかし観光バスの駐車場を過ぎた辺りからいきなり激坂が現れた!

おかしい!動画で見てたより激坂ではないか!

恐らく私が観た動画はハンドルの下にカメラを付けて撮影した映像だったのか? カメラが人間の視点よりかなり下のため、勾配が緩く映っていたのだろうか? 私は動画の急勾配詐欺現象に遭ってしまったのだ!

しかし私は幸いロー32Tのスブロケを付けて来ていた。坂バカたるもの常に大きめのギヤを付けておくべし!の教訓が生きた。もし28Tで来ていたら全くレースにならなかっただろう。これからは事前のレース動画チェックは慎重に見ようと誓う。

明日がレース本番なので心拍を150以上は上げずに上る。しかし階段王とママチャリ戸丸は水を得た魚の様にカッ飛んで行った。抑えが効かなかったのだろう。

あくまでも試走と割り切るが、激坂は容赦なく襲ってくる。この佐渡金山のコース……激坂が終わらない。ず〜〜っと20%を超える激坂が続くのだ!こんなコースは初めてだ!脚も腰も悲鳴を上げ続ける。

これは明日が思いやられると思っていると、何故か階段王が下山して来た。どうした?と聞くと「どうしても追い込んじゃうんでやめときます!」と。階段王には抑えて走るという概念が無いらしい。体を見ると全身の血管が浮き出て、胸郭はタルのように隆起している。相当仕上がっている……階段王は妙なオーラを発しながら下山していった。

 

激坂とのスタンスはそれぞれ

下山して来ない戸丸はお得意のダンシングで激坂を攻めて続けて居るのだろう。26歳の若さだ、仕方ない。私がロードバイクに出会ったのは36歳だった。もし20代から出会っていたらどうなっていただろう。やはりレースに出て、坂バカになっていたのだろうか。いやそれは無いだろう。私は36歳で出会うべくしてロードバイクに出会ったのだと思う。

人生も50年近く生きてくると、それぞれの年代で用意されているトピックがあったように思えてくる。私の場合は20代は劇団での演劇。30代は事務所を移籍してTVドラマ。40代は坂バカという具合だ。昔、とある作家の告別式の弔辞で女優の名取裕子さんが「40代は人生の夏!」と仰っていた。

私はそろそろ人生の秋を迎える。
美しい紅葉が待っているのだろうか……大型台風が待っているのだろうか。
先は見えないが進むしかないのは人生も激坂も同じだとペダルを回す。

1時間15分くらいかけてようやく登頂すると、人生が初春の戸丸が満足気に立っていた。どうやらニューマシンの軽量ママチャリ(9kg)との相性が良く、速く上れたらしい。私も少しニューマシンに乗せて貰ったが、素晴らしくバランスの取れた良い乗り味だった。以前のママチャリ(20kg)に比べれば全くの別物だ。

これで表彰台に乗って貰いたいと思う気持ちと、もう遠い存在になってしまったような淋しい気持ちが交錯する。

猪野コラム 第6回

戸丸のニューママチャリ!トップチューブにボトルゲージが付けられる。

 

後から聞いたら、ポッチャリダーのロマンス河野は急勾配が始まるバス駐車場で早々に引き返したらしい。今から思えば彼が1番大人で正解だった。

それぞれの思惑で試走を終えた坂バカ部。明日のレースではどんな展開になるのか、全く予想が付かない。

コンディションが低下している私は不安でしかない。
一縷の望みは減量した53kgの体重だ。しかしこの減量が私を更に苦しめる事になる。

猪野コラム 第6回

53kgに絞り込んだ体重。軽さは正義!は時と場合による。

 

山頂から見た日本海に沈む夕陽が美しかったが、私には妙に不気味に写った。明日のレースが過酷なものに成ると物語っているかように……そしてそれは現実となるのであった。

 

次回「協調性ゼロ坂バカ部!チーム崩壊編へ」と続く。

 

猪野コラム 第6回

日本海に沈む夕陽とよく言うが夕陽は日本海に沈むものだ。何故か不気味に輝く。

 

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