猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第7回
目次
レース後 頂上にて 夕日が切なく輝く。
静かに降り続く春雨を眺めながら、自室でこの記事を書いている。
10日後には今年の開幕レースがある。
今年こそ上手く結果を出せるだろうか?
昨年の佐渡金山ヒルクライムの時のようにまた坂に捻り潰されるのだろうかと不安がよぎる。
佐渡、レース当日
佐渡金山ヒルクライム。
レース当日がやって来た。
このヒルクライムは珍しく午後からのスタートだ。
スタート地点に新潟の猛者達が現れる。
こんな激坂のレースにわざわざ参加するのだから速い人が多いはずだ。
するとひときわ目立つ鮮やかなオレンジ色のジャージが現れた!麒麟山レーシングだ!実業団で優勝経験も有り乗鞍2位の猛者もいる。
これはかなりレベルの高いレースが予想される。
坂バカ部の活躍はいかに!?
日差しが強い昼下がり、スタートが切られた!
真っ先に先頭に立つのは麒麟山!と思われた。
しかしただ1人スタートダッシュする赤い彗星ではなく赤いレーパンの男がいる。
どこか人を小馬鹿にした様な軽薄な赤。そう!戸丸だ!
ヒルクライムは抑えめに入るのが鉄則だ。
戸丸も抑えめにスタートしたつもりだったのだろうが、ひょんな事から飛び出てしまった。
出ちゃったものは戻せない!野生の王国のような雄叫びを上げてあっという間に消え去って行った。
戸丸を除いた集団を引くのはやはり麒麟山のお二人と大会五連覇中の優勝候補!変態クライマーさんこと佐藤忍さんだ。
佐藤さんは私と同い年でありながら異次元の速さをもつ。中年の希望の星なのだ。
私は5番手に付ける。出力は280W!前は300Wを越えているだろう。
私にしてはオーバーペースだが、佐渡金山跡の平坦までは引いて貰いタイムを稼ぐ。
すると1人の選手が謎のアタックをしかけた!
青いレーパンの男……階段王だ!
なんだこの坂バカ部内の謎のアタック合戦は!?
後から聞いたら「大ちゃん(戸丸)に追いつきたかった」
と……追い付いて協調してそのままゴールしたら完璧だがそんな事はあり得ない。
この激坂を逃げ切れる訳がないのだ。
集団は佐渡金山跡に着き激坂が始まると予想通りバラバラになった。
麒麟山と変態クライマーさんの6人くらいが集団として去って行った。
調子が悪い私は次々と抜かれるが無理はしない。必ず激坂区間で何人かタレて降りて来るからだ。
ペースで淡々と上るがやはり調子が悪い。体に力が入らない。
蓄積疲労だろうか……。今考えればレース前に2週間ぐらいドカっと休んだ方が良かったのかも知れないが、そんな勇気もなかった。
今だから話せるが私は佐渡の次に坂バカ部が参戦した「箱根ヒルクライム」はギックリ腰により棄権した。
治療のために10日間自転車に乗るのを止めたら、コンディションはすこぶる回復し50歳目前でFTPを更新出来た。
高強度のトレーニングにより強くなっていたがその分疲労のリスクも溜め込んでいたのだ。
ピーキングに失敗しても始まったものは終われない!
せっかく佐渡まで来たし、こんな激坂を上る機会は滅多にない!諦めるものか!?
今の順位は20位ぐらいだろうか?
気力を絞り出し上っていると案の定、上から2人の選手が降りて来た。
人が見えると力が湧くものだ。あの2人を絶対抜く!とペダルを踏む。
するとコースに2カ所ある下りが訪れた。坂バカあるあるだが、何故か坂バカは下りが遅い。
私はここぞとばかりに下りで踏んでコーナーも攻め、下りで2人に追い付いた。
しかし上り返しで2人が意地を見せ私を離しにかかる。
私にだけは抜かれたくないのだ。
私はチャリダーで「出来ない人」の代表みたいに描にかれている。まぁ実際に出来ない事が多い。
出来てしまったら番組として取り扱われない。それはそうだ。私がポガチャルだったら何の面白味も無い。
そんな出来ない人の代表に抜かれると皆さんこの世の終わりみたいな表情になられる。
私ももし私に抜かれたらそうなるだろう。
バトルは最後の激坂に差し掛かる。
すると1番若いであろう1人がアタックし引き離す!余力が有ったのか!?
私と同年代くらいのもうお一方との一騎討ちとなった。
抜きつ抜かれず!お互い一歩も譲らない…その内にゴールが近づいて来た。
私は「最後は仲良くスプリントしましょう!」と持ちかけた。
すると「もう脚が無いです!」と返ってきたので最後は少し踏んで先行しゴールした。
タイムは59分19秒 年代別では7位。
総合では18位であった。
ニューママチャリの戸丸に4分も差をつけられてしまう悔しい結果となった。
謎のアタックをした階段王は、麒麟山のお二人と変態クライマーさんと互角に戦い!見事総合で4位!さすがのポテンシャルを披露した。
ロマンス河野も脚を付きながら制限時間ギリギリで見事完走を果たした。
私以外の坂バカ部は見事な成績をおさめた。
絶望のなかで見えたもの
本土に戻る最終の船の時間が迫るため早々に下山し、表彰圏内に入った階段王を置いて我々は急いで佐渡を後にする。
ようやく船に駆け込み。日本海を眺めながらレースの余韻に浸る。
今回も努力は報われる事は無かったかと。絶望とはこの事だ。
明日からまたサドルに跨る事はできるのだろうか?
こうやって私の2021年シーズンは終わってしまった。
そして2022年…私はまたサドルに跨っている。
その時間は驚くほど少なくなった。
いつか書ける時が来たら書かせていただくが、今年は新たなアプローチを試みている。
そしてまたFTPを更新出来た。
この新たなアプローチの成果は10日後に開催される開幕戦で明らかとなる。
今年こそは!上位に食い込む!
もう絶望はごめんだ!
努力は報われなければならないものだ。