走行距離7400km ノールカップ~タリファ 世界最高難易度の超長距離サイクリング

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ノールカップ〜タリファ

走行距離7400km、獲得標高80000m。ヨーロッパの最北端から最南端を縦断するレース「ノールカップ~タリファ」は、ベテランのウルトラサイクリストの間で、 “世界一過酷なレース”と呼ばれている。このレースに夫婦で参加し、大会初めてとなるペア完走のタイトルを獲得したスレ・由美さんに話を聞いた。

 

過酷なサイクリングレースに出場するようになったきっかけは?

ヒルクライム、特に山岳レースが好きだからです。私はツールドフランスの難関山岳地帯として有名なピレネー山脈のトゥールマレ峠の麓に住んでいます。13年間欠かすことなく、フランス、イタリア、スイス、スペインのあらゆるアマチュア山岳レースに参加しています。近年は、世界一過酷な1日レースと言われる、ツールドモンブラン(走行距離330km/獲得標高8200m)、地元ピレネーの超難関レース、ルション・バイヨンヌ(走行距離320km/獲得標高5500m) 等に出場し、良い成績を残すことができたので、さらなる過酷さに挑戦したくなりました。ノールカップ〜タリファともなると、自分の限界に挑めます。また、大会初のペア完走タイトルの獲得は、夫と私の良い目標になりました。ペア完走は、多くの人が不可能と断言していましたから。 

ノールカップ〜タリファ

CS:ノールカップ〜タリファを知ったきっかけは?

今年は、これまで経験したことのない過酷なレースを探しました。世界中のロードバイクレースの中から、ウルトラレース、マウンテンクライム、最高難易度等にカテゴリーを絞ってリサーチし、ノールカップ〜タリファにたどり着いたのです。その後、装備情報などを収集するため、ウルトラレースのコミュニティーに参加。ベテランウルトラサイクリストの間では、すでに “世界一過酷なレース”と呼ばれていて、興味が深まりました。

CS:レースの概要、ルール、コースはどんなものなのでしょうか?

走行距離7400km、獲得標高80000m。スタート地点はヨーロッパ最北端、ノルウェーのノールカップ。ゴールは最南端、スペインのタリファです。その間の15カ国を完全セルフサポートで縦断するレースです。コースは路面の悪いオフロードを含み、アルプスとピレネーのふたつの山脈を越えます。他のレースとは桁違いの距離と標高越えから、ウルトラサイクリストたちの注目を集めました。

 

強烈なコースレイアウト

ノールカップ〜タリファ ノールカップ〜タリファ ノールカップ〜タリファ

参加者の多くは、毎年ウルトラレースで競い合っている顔見知りでした。世界中のレースに参加する有名サイクリストも少なくなく、ウルトラレースの定番「トランスコンチネンタル」「トランスアメリカ」の優勝経験者も出場しました。ボブスレーのトレーニングにサイクリングを取り入れた、スイスのオリンピックメダリストや、オランダのスピードスケートの国体選手。16カ国27名のアスリートたちが参加しました。

ノールカップ〜タリファ我々は、スタートから33日目にタリファに到着。目標だった「初代ペア完走タイトル」を獲得しました。ゴールインしたのは27人中11人です。参加者の3分の1は、最初のチェックポイントのヘルシンキまでの1763kmでリタイヤしました。

レース参加者は、衛星アンテナのGPSトラッカーを持つことが義務づけられています。決められたコースを走行すること、外部からのサポートは一切受けてはいけないこと、ドラフティングはしてはいけないことなどがルールにあります。

CS:どのような準備をしましたか?

使用したバイクはルック・675。長距離走行時の頻繁な悪天候とオフロードを考慮し、ディスクブレーキ仕様の新しいグラベルバイクを検討しましたが、ミリ単位で私のカラダに調整した、乗り慣れたバイクを選びました。レース時に愛用するカーボンホイールは、雨天時のブレーキと重い荷物を装着した長距離&標高越えから使用せず、アルミホイールに変更しました。タイヤは、パナレーサー・グラベルキングの28mmを使用。オフロードを意識した選択です。

一番苦労したのは、ツーリングバッグ選びでした。私は欧米人に比べて小柄なので、バイクフレームは49サイズ。これに合うバッグがなかなか見つかりませんでした。
リサーチと有名ブランドへの問い合わせは数ヶ月にもおよび、レース直前まで走行テストを繰り返しました。その甲斐あって、私のバイクにも装着可能、満足いく容量も確保し、走行時の安定性が抜群に良いツーリングバッグに巡り会えました。

フロントバッグ、サドルバッグ、ダウンチューブの上下にステムバッグを1つずつ、計4つを装着。サイクリングウェアは上下2着ずつ、レインジャケット、冬用ジャケット、グローブ、アームウォーマー、レッグウォーマー、ネックウォーマー。メカニック道具は、最低限のものだけ。スペアは、チューブ、タイヤ、ブレーキパッド、チェーン、ディレーラーハンガーを1つずつとオイル1本。そのほか、充電器、スリーピングバッグ、ビヴィーバッグ、常備薬。ありとあらゆるバッグの隙間に、補給食、エレクトロライトタブレットを詰め込みました。バイクを含む総重量は約18kgでした。

CS:走行するペースはどれくらい? どんなプランニングをしましたか?

超級山岳地帯に入ってから走行ペースをあげました。上り慣れた山々だったので、気持ちに余裕が出たのと、バイクの故障時のロスを取り戻すためです。特に記録的な猛暑だったフランス、スペインでは、気温が低い早朝と夜間に走行距離を長くしました。

ノルウェー、フィンランド
(気温4℃〜7℃。雨天走行)
走行距離:1763km
獲得標高:12472m
走行日数:5日
一日平均走行:336km/2376m

エストニア、ラトビア、リトアニア
(グラベル、オフロード走行)
走行距離:836km
獲得標高:2143m
走行日数:3日
一日平均走行:257km/660m

ポーランド、チェコ、ドイツ、オーストリア、リヒテンシュタイン
(天候の変化が激しく、強風走行)
走行距離:1635km
獲得標高:9965m
走行日数:7日
一日平均走行:214km/1303m

スイス、イタリア、フランス
(超級山岳地帯。猛暑)
走行距離:1781km
獲得標高:22755m
走行日数:8日
一日平均走行:220km/2816m

アンドラ、スペイン
(超級山岳地帯。猛暑)
走行距離:1554km
獲得標高:19762m
走行日数:7日
一日平均走行:218km/2776m

CS:睡眠や食事、風呂、洗濯などはどうしていましたか?

一日の平均睡眠時間は、ノルウェーとフィンランドでは約2時間。その後は、約3.5時間でした。走りながら適度な場所を探し出し、ビヴィーバッグを広げて寝ていました。日中に眠くなったときは、道脇の平坦な草むらやバス停のベンチで、10分だけの昼寝をしました。今回、最大の敵は睡魔です。どんなに雨に打たれていようが、空腹であろうが、呼吸を整えながら山を上っていようが、集中して下っていようが、1日にいく度となく睡魔に襲われました。意識が遠のいては頭を振り、頰を思いっきり叩きながらの走行は頻繁にありました。

ノールカップ〜タリファ

どうしてもシャワーが必要だったとき、たとえ数時間でもベッドに横になりたかったときは、コース域内のホテルに泊まりました。洗濯は、ホテルで手洗いです。サイクリングウェアを何日も着替えないで走ることは、よくあります。シャワーを浴びていない日は、ガソリンスタンドのトイレで顔と手足を洗いました。

食事はコース域内のスーパーマーケット、ガソリンスタンド。短時間で買い物を済ませ、駐車場で掻きこむように食べます。

CS:これだけの距離を走るとなると、さまざまなトラブルが起きると思うのですが、特に印象深いトラブル3つを教えてください。

1つはライトのバッテリーが不十分で、思うように早朝と夜間を走れなかったことです。参加者の多くは、ダイナモをハブに取り付け、自転車を漕ぐことで発電し、充電していたのですが、ダイナモを使っていなかった私は、モバイルバッテリーをジャージの後ろポケットに入れ、走行しながら充電しました。またガソリンスタンドでコンセントを探し、機会があるごとに充電していました。それでもヘッドライトの充電は間に合わず、早朝と夜間走行を断念することが少なからずありました。ドイツとスペインでヘッドライトをひとつずつ買い足したのですが、それでもゴールするまで、充電不足の問題はつきまといました。

2つめはバイクのメカニック問題です。エストニア、ラトビア、リトアニア縦断時に、オフロードの悪路の激しさに6回パンクしました。オフロード走行での疲労、ストレスはピークに達していました。相方のバイクのディレーラーケーブルの故障で、エストニア、ポーランドでまる1日ずつ時間をロスしました。地元のバイク店が好意的に修理してくれましたが、他のサイクリスト達に差をつけられる焦りと苛立ちのなか、ペアエントリーの難しさを実感しました。

3つめは、15カ国も通過したので、さまざまな気温と天候に襲われたことです。ノルウェーの4℃から始まり、スウェーデンでは1日中雨に打たれ、ポーランドに入り突然の35℃の猛暑日。強風地域がつづき、超級山岳に突入すれば、日中は記録的な猛暑。峠の頂上付近は強風、悪天候と常に天候と気温の変化が激しかったのです。着替えは限られていたので、苦労しました。ゴール目前になって、体調を崩しました。

CS:逆に、素晴らしい瞬間も数多くあったと思います。ベスト3を教えてください。

バイク修理時の時間のロスを取り戻すため、超級山岳地に入ってからペースをあげていき、最長時300kmほどあった先行サイクリストたちとの差を挽回。先頭で、最終チェックポイントのピコデベレタ3398mに登頂できました。日の出とともに頂上に到着したときの達成感と、3398mから見下ろしたグラナダの町は忘れられません。

イタリアのマッジョーレ湖を走行中、前方の道路脇で大きく手を振りながら、私の名前を叫んでいる人がいました。近郊に住むイタリア人サイクリストです。GPSトラッカーで参加者の走行を追いながら、応援に駆けつけてくれていたのです。多くの国で、追い越しぎわに徐行した車から声援をもらったり、地元の方々、ホテルスタッフの方から差し入れをいただきました。

バイクが故障したときは、閉店時間を過ぎているにもかかわらず、すぐレースに戻れるようにと献身的に修理してくれました。地元の人とのふれあい、声援、サポートは、私達が完走することができた要因のひとつです。いくどとなく勇気づけられました。

レース中なので観光こそできませんでしたが、自転車旅の醍醐味を知りました。以前から興味のあったバルト三国の街並みに、旧ソビエト連邦の面影がくっきりと残っていたこと。ドイツのバイエルン地方の伝統的な村々では、独自の文化を目のあたりにできたこと。ペダルを踏み続けながらでも、何かしら感動を得ることができるものですね。思い出深いのは、ドイツの贅沢な朝食です。本物のエスプレッソと本場のプレッツェルは、忘れられない味です。ガソリンスタンドのコーヒーには、飽き飽きしていましたから。

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スレ・由美さんが主催する欧州サイクリングツアー

 

フランスピレネーに拠点をおく、サイクリングツアー会社VéloTopo。フランス、スペイン、イタリア、スイスの山岳地帯を中心にカスタムサイクリングツアーを企画提供。ツールドフランス、ジロデイタリア、ブエルタで馴染み深いヨーロッパサイクリングの魅力を発信している。 ヨーロッパでのサイクリングに興味があるなら、以下の情報をチェックしてみてはどうだろうか。

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