猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第9回

猪野学 ネオ坂バカ 第9回

筆者の背後にそびえ立つ雪壁。この後、過酷な拷問が訪れる事を彼はまだ知らない

2022年!坂バカ部は新たな体制でヒルクライムに挑む事になった。
新たに監督に就任したのは筧五郎氏。
監督を降板させられた私は首の皮一枚、見習いからの再スタートとなった。

部員として残ったのは芸人殺しの面白さを持つ階段王とママチャリ坂バカの戸丸だ。
この2人は昨年可能性のある走りを披露した。
しかし表彰台まではほど遠い。何故なら彼等は弱点だらけだからだ。
そんな彼らの弱点を克服すべく真冬の青森で合宿をする事になった。

朝7時に羽田空港に集合する。
到着すると何やら戸丸が汗だくだ。
どうやら国際線ターミナルに行ってしまったらしい。戸丸の行動は誰も予測出来ない。

しかし戸丸は「僕は基本2時間前行動なので大丈夫です」とドヤ顔だ。
聞くと深夜2時に群馬を出発したらしい。

皆が揃い保安検査を通過すると戸丸は何故か裸足になっている。
最近の保安検査は、かかとが隠れている靴は脱いで金属探知機を通さなければならない。
どこまで本気か分からないが「靴を脱いで搭乗するのかと思いましたよ」と何故かまたドヤ顔だ。

ようやく機内に入るとまた戸丸が騒がしい。座席番号が書いてある紙を無くしたようで、自分の座席が分からない。
今度はドヤ顔ではなく顔面蒼白でこの世の終わりの様な顔をしている。
CAさんが慌てて駆け付け、機内前方まで搭乗者名簿を確認しに行き、見事にCAさんの仕事を増やした。
戸丸はただ現地に移動するだけで目が離せない坂バカ部のワンダーボーイなのだ。

猪野学 ネオ坂バカ 第9回

行きの飛行機で失態を犯し、帰りは我先にと搭乗しようとするが止められるワンダーボーイ。最初に搭乗できるのはビジネスクラスや会員だという事を彼はまだ知らない

 

 

ようやく青森に着くと早速MTBで雪を走る。
しかしお借りした陸上競技場はあまり圧雪されてなくかなり走りづらい。
スノーモービルで圧雪するもまだ深雪だ。
これはかなりのペダリングスキルが要求される。

私は過去に何度も雪上レースに出ていているので踏み過ぎないペダリングを心得ている。いわゆるトラクションコントロールというやつだ。
ガチャ踏みな階段王と戸丸は早速弱点が炙り出される。
丸く丁寧に回さないと深雪は進まないのだ。

私は何故か悪路になるとペダリングが上手い。
恐らく悪路が踏みどころを教えてくれるからだろう。
雪道では2人に圧倒的な差を見せ付けた。

猪野学 ネオ坂バカ 第9回

階段王のサドル高を調整する監督。サドル高はペダリングに直結する

 

お次はクロスカントリースキーに挑戦する。
クロスカントリースキーの動きは自転車に酷似している。
かかとを浮かしスキーを駆り出す足首の動きはペダリングの引き脚そのものだ。

ストックを使い前に進む動作も五郎監督によると肩甲骨の動きが自転車と同じらしい。
自転車と肩甲骨……
実際に乗車時に肩甲骨がどう作用しているのだろうか?とても興味深い。
とにかく五郎監督には教わる事が多いのだ。

移動時間の車中でも監督から勝つためのメンタル面での指導が入る。
もっと「勝ち」にこだわれと。「楽しみたい」ではダメだと。出場するからには勝ちに行けと。
確かにパワー・ウェイト・レシオで5倍出せる階段王は勝ちにこだわる必要があるかもしれない。
しかし4倍ちょっとの私やママチャリの戸丸は勝つ以前の問題だ。
まずは5倍出せるように努力するしかない訳だ。

なかなか耳の痛い話だが、実のところ移動時間の大半は下ネタである。

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五郎監督からカッコ良いサイクリストの在り方について教わる階段王(左)と戸丸(右)

 

合宿の最後は豪雪の八甲田山をヒルクライムする。
雪で学んだペダリングを試すのだ。

深雪で苦戦した順にスタート!!
階段王、戸丸、私の順番だ。
スタートしてすぐ気付く!道が圧雪されている!
八甲田山は交通量が多いからだ。
これではアスファルトと変わらない。

自慢ではないが、私は悪路は強いが整地は弱い。
これでは階段王と戸丸に勝てる訳がない。

おまけにスタート地点にトイレが無かったので、何やらもよおしてきたではないか!?
脇に入り用を足したいが、除雪された雪の壁が高くて脇に入れない。
これは本気でマズい。
観光バスが多いし、番組ロゴが入ったジャージを着てお尻丸出しでうOこなんて決して出来ない。
トイレはゴール酸ヶ湯温泉まで無い。

どんどん肛門の内側からのノックが激しくなる。
自転車はお尻の筋肉を使えと言うが、こんなに肛門に力を入れてペダリングするのは初めてだ!
寒い!キツい!ヤバいの三拍子!新しいタイプの拷問だ。

結果40分の肛門拷問ヒルクライムを戦い抜き、階段王から10分以上も遅れてゴールした。
しかし悔しさより何より酸ヶ湯温泉のトイレに駆け込んだ時の安堵感と解放感が全てだった。
その安らぎは酸ヶ湯温泉の名湯より勝るのであった。

湯船に浸かりながら五郎監督が「あの2人は若いし今年は勝つかも知れないね」と仰った。
その言葉どおり2022年、坂バカ部のワンダーボーイ戸丸が旋風を巻き起こすのであった。

因みにワンダーボーイとは?とSiriに聞くと
「並み外れた才能を持つ若者」と返って来る。

猪野学 ネオ坂バカ 第9回

青森は魚粉文化。ラーメンがとても美味だ

 

猪野 学 公式Twitter