プレ五輪/日本開催の世界最高峰MTBレースに、日本チーム選手と監督が感じたこと
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プレ五輪こと、MTB五輪レースのテストイベント《READY STEADY TOKYO》マウンテンバイク競技は、このスポーツが進化する最前線を目の当たりにすることになった。実際に走った日本選手は何を感じたか。世界に挑んだ選手のコメント群。
世界トップを目指すMTBライダーが、初公開された世界最高峰レースのコースを走る。木曜に目視、金・土曜にそれぞれ4時間という限られた時間で攻略し、レースを行う。
すべての選手に平等な条件で、世界一難しいと言われるコースでのレース結果が、先の男子ニノ・シューター、女子ヨランダ・ネフという共にスイス人ライダーの勝利であった。
レースレポートはこちら:
東京五輪MTBテストイベント 他に類を見ない新設コースにてネフとシューターが金
その状況の中、日本選手たちの最高位は、女子が松本璃奈のマイナス1ラップの34位、男子は山本幸平の8分35秒遅れの35位だった。
「ワールドカップを廻るなかでは、これと似たような順位が多い」と、日本代表監督の鈴木雷太氏。「技量の差、経験の差、という言葉で片付けていたことが、明確になんなのかイメージできたのではないでしょうか」
ここでは、実際にそのコースに挑戦し、そして世界に挑戦した日本代表MTBレーサー、そして代表監督の言葉をまとめた。
川口うらら (女子37位 −1ラップ)
今回、1回目の試走でロックセクション(岩場)で転倒していまいました。そうなると次の日の試走で、挑戦したいところも気後れしてしまって挑戦できない。他の海外選手もそうだったとは聞きますが……。
レース自体は、私はまだまだで。技術も必要なんですけど、それに負けないぐらいのフィジカル(体力)が必要だと感じました。まずそこから鍛え直していきたいと思っています。
今井美穂 (女子35位 −1ラップ)
今回のコースはすごくテクニカル(技術的に難しい)で、日本には今までないものだという印象でした。ただパッと来てすぐに走れるコースではないんですね。ロックセクションにある大きな岩は、これまで超えたことどころか見たこともなかったです。
昨日、2時間半をかけてやっと1周できたようなコースでした。レース結果も1周の差がついてしまい、フィジカル(身体能力)の部分にも劣るところが多すぎるので、この差は少しずつ詰めていくしかないなと思います。
松本璃奈 (女子34位 −1ラップ)
下りは慎重になりつつも、何回も繰り返して走って練習して少しずつラインを掴み、上りでは(高い)ケイデンスを意識してペダリングしました。
このコースは「粘りが必要だな」と感じました。急坂が多かったので、フロント(ギア比)を30Tで行ったんですが、それでもギアが足りないという感じでした(30x51T)。今回のコースはワールドカップでも見たことないので、それに似たコースを自分の環境で探して、練習していきたいと思っています。
レースでは、1周目で転倒してしまいましたが、それは特に響くこともなく走れました。ただやれることはやったんですが、完走よりも上を目指していたので、完走すらできなかったことはすごく悔しいです。
平野星矢 (男子43位 −4ラップ)
1周目で落車してしまいました。違和感を覚えて踏めなくなってしまったので降りようと思ったのですが、途中で降りていいのか判断できなかったので、そのまま走り続けて80%ルールでカットして貰う形になりました。
コースはとても難しいです。特にロックセクションですね。ラインがいくつもあって自分だけではアイディアが浮かばない(笑)。走れそうなラインを追って、それを走ったという感じでした。
平林安里 (男子42位 −3ラップ)
遠征が続いて体を崩してしまい、体が整いきってない部分があったので、最初で食らいついていけるだけ食らいついて、それを目標に走りました。
スタートもうまく決まって、20番手ぐらいまで順位をあげられたのですが、1周目、シングルトラックで落車して、順位を落としてからうまく上がらなくて、途中で切れてしまう形になりました。できるだけのことはやったなという感じです。
コースはアップダウンが大きい印象を受けました。攻略まではラインを一本一本確認していくので、時間は結構かかりました。通して走ると、意外と走れたんですが、上りが間髪入れずに入るので、なかなか息継ぎが難しいなという印象を受けました。中盤のロックセクションは、毎回緊張して入っていきましたね。
来シーズンからエリートに上がるので、もっと持久力と技術力を上げ、練習して備えたいと思っています。
前田公平 (男子40位 −1ラップ)
(スタートからの)かかりが良くなかったんですが、中盤からペースが掴めました。最後、最終週は入れませんでしたが……。
ここ2ヶ月ぐらいコンディション悪かったんですが、MTBのレースで、これだけ応援してもらって、最近の中ではよく走れたのかなと感じています。
コースは、ロックセクションあり、パンプセクションあり、いままで日本ではなかったスキルが求められるコースだと思います。個人的にはロックセクションは苦手でしたね。
山本幸平 (男子35位 +8分38秒)
本番とはこの環境とは全く違う、真夏、暑さと湿度がこれに加わるので、もっとタフな展開になるのはわかっています。体を冷やす方法も考えてやっていかないといけないかなと思っています。
今はオフシーズンなので、今の自分のペースで走って、感じられることを感じて、本番に向けてどういうことが練習を取り入れていかなくてはいけないのか、考える時間のスタートです。最後まで自分を追い込んで。世界とは差はありますが、ここからどうやって高めて刻んでいくか、が僕自身にやれることなのかなと思います。
休むところがない、4kmが盛り沢山なコースになっていますね。ワールドカップであれば、もう少し流れてくれるところ、ちょっと呼吸を休められるところが多いんですが、今回は急斜面を登るとハードな下りが続いて。休むところが少ないのかなという感じです。
鈴木雷太 (日本MTB代表監督)
技量の差、経験の差、という言葉で片付けていたことが、明確になんなのかイメージできたと思います。今回イコールで初見というコンディション。金曜日、土曜日に3~4時間だけ試走して。そういう限られた時間の中で、経験値の多い技術のある選手は、走れるようになるだけじゃなくて、さらに速いラインを見つけられる。それが結果にすごく反映されたかなと思っています。
このコースは、テクニック面で言うと世界で一番難しい。上りはきつくて下りは難しい、それをつなぐカーブは全てオフキャンバーになっている。そういう状況の中で、スピードの緩急が激しい。実際に走ってみると、ラインができてくると意外に流れて、コーナーでブレーキをケチりたくなって、コーナー出口の速度が速くなると次の上りが登りやすくなる。反対に速度が遅くなるほど、踏まなくてはいけなくなって、体力を奪われる。そこが成績の差になったのではないかと思います。全体の速度域を圧倒的に高く保たなければいけない。
なかでも一番大事なのは今回、日本で行われたことで、多くの人が世界との差を目の当たりにしたこと。これは今後のマウンテンバイク文化での大きな動きにつながるんじゃないかと思っています。単に誰が強い、かっこいいではなく、なぜ速いのかがなんとなく見えてきたというか、感じた人が多いのではと思っています。
他のワールドカップのコースで言うと、例えばその地元で練習をしてきたり、毎年開催されるワールドカップと共に育ったジュニアが今、世界で活躍しているという状況があります。このコースを今後、競技連盟としてどう使っていくかが、今後の競技成績の伸びしろに大きく関わってくると思います。