よってかれ、極上のうみとやま! 富山じてんしゃ旅 ものづくりの町を巡る田園サイクリング編
目次
富山は海や山だけだと思ってませんか? 田園サイクリングコース沿いの田んぼに水が引かれた後に、コースをいいとこ取りしたじてんしゃ旅へ。自然だけでなく、富山は町並みやものづくりもすごいんです。
初夏の陽気が気持ちいい田園サイクリングコース
東は朝日町から、西は小矢部(おやべ)市や南砺(なんと)市まで富山の内陸部をつなぐ田園サイクリングコース。このコースはそのままトレースするよりは、部分的につないで走る方が楽しそう。ということで、春も利用した富山地方鉄道のサイクルトレインに乗って、まず上市(かみいち)駅まで。「5月の富山は、絶景の田園風景が見られるらしいですよ」と、事前情報を仕入れているシマコと共にスタート。
田園サイクリングコースの序盤、水汲みの車がひっきりなしに訪れる名水スポット『城山の湧き水』が道端にあった。一日分の水をボトルに補充する。向かいのカフェでは、ここの湧き水を使用したソフトクリームも販売しているのでオススメ。
真言密宗の大本山として知られる『大岩山日石寺(おおいわさんにっせきじ)』は少し坂を上った先にあり、行基菩薩が大岩に刻んだ不動明王を本堂で見ることができる。ここの名物は滝行体験。本堂脇に六本滝が流れ落ちている。
「煩悩が多いクリヤマさん、打たれてきたら」というシマコの言葉に、真夏なら案外気持ちいいかもと既に不純なことを考えつつ、「大岩そうめんがおいしいらしいよ」と食へと誘導。「水のおいしいところは食べ物もおいしい」ということを証明すべく、『金龍 大岩店』へ。出汁の効いたつゆが絶妙の味で、スルスルッと何杯でも食べられるおいしさ。さあ、サイクリングに戻ろう。
称名滝ヒルクライムコースの起点、岩峅寺(いわくらじ)駅から立山橋を使って常願寺(じょうがんじ)川を渡る。富山地方鉄道と少し並走した後、県道35号に入ってしばらく進むと、両側に水田の広がる一帯に出た。
「こんにちは〜」と、地元のサイクリストに声をかけて、しばし同行させてもらうことに。この高橋さん、実は富山でサイクリングガイドをされている方だった。「富山は湾岸も田園もどちらも気持ち良く走れる場所がありますよ」と、特にオススメの道をいろいろと教えてもらった。
高橋さんと別れて、後半は湾岸・田園連絡サイクリングコースを使って戻る。少し時間があったので『呉羽(くれは)山展望台』に寄り道。軽いヒルクライムを終えると、オールキャストの山嶺がはっきりと見渡せた。
銅、錫、アルミなど ものづくり精神が息づく町
富山県西部の中心、高岡まで輪行でやってきた。町のシンボルの『高岡大仏』からすぐの『大佛旅館』に投宿。自転車を倉庫に入れて、てんこ盛りの明日の予定をどうこなすか作戦会議。実は工芸品が大好きなシマコは、前々から高岡に来るのを楽しみにしていたのだ。
翌朝から早速、高岡の町巡り。高岡の中心地には『山町筋(やまちょうすじ)』と『金屋町(かなやまち)』の2か所、重要伝統的建造物群保存地区があり、それぞれ担っていた役割が異なる町だったという。
高岡大仏からも近い山町筋は、1609年の開町以来、商人の町として栄えた。旧北陸道沿いに土蔵が立ち並び、古き町並みの面影を残している。複合商業施設『山町ヴァレー』には、雰囲気のある店がいくつか入っていて、「クラフトビールが飲めるなら、夜立ち寄りたいね」と高岡への再訪を既に心に決めた。
かたや、千保(せんぼ)川を渡った先にあるのが金屋町。時の加賀藩主、前田利長公が鋳物師を領内から呼び、高岡鋳物発祥の地となった。特に、日本の銅器生産高のシェア90%にまで成長した高岡銅器は、高岡の産業の中核を担う存在だ。千本格子の家々が並ぶ一帯は風情たっぷり。なんでも火事が城下まで燃え広がらないように、川を隔てた一帯に金屋町は作られたんだとか。「これ素敵〜」。クラフトに目がないシマコは、『大寺幸八郎商店』で特製イヤリングを購入。
盛りだくさんな高岡は、これだけでは終わらない。ご存じ『ドラえもん』の作者、藤子・F・不二雄氏の生まれ故郷であり、『高岡市美術館』や、駅前の『ドラえもんの散歩道』、路面電車のラッピングなど至るところで、ドラえもんに出会える。
そして、町の礎を築いた前田利長公の菩提を弔うために建てられた『瑞龍寺(ずいりゅうじ)』もオススメのスポット。山門、仏殿、法堂が国宝指定されていて、その荘厳なたたずまいは禅宗寺院建築を代表するものだとか。
なかなか高岡から抜け出せない。町散策だけで丸一日楽しめそうだけれども、後ろ髪引かれる思いで田園サイクリングコースを南下する僕らには、この日まだ、大きな目的が2つあった。一つは、1916年に創業した鋳物メーカー『能作(のうさく)』で、ぐい呑み造り体験に参加すること。
そして、屋敷林という林に囲まれた家々が点在し、水田が広がる砺波(となみ)平野を走ること。この平野越しに沈む夕陽を望むことができるという、散居村(さんきょそん)展望広場からの“ウワサの絶景”を自身の目で確かめることだ!
人々の営みから生まれた田園風景がすごかった
庄川(しょうがわ)沿いのコースを南下し、雄神大橋を渡ってから、いよいよ『散居村展望広場』の上り。となみ夢の平スキー場へのヒルクライムと言った方が分かりやすいか。最高地点までは高低差約380m。距離は約8km。一日の締めくくりに上るのは少々ハードだが、果たして日没までに間に合うのか。スキー場までかなり本格的な上りだ。かかっていた雲はどうやら流れたようで、空がほんのり赤みがかってきている。スキー場を通り過ぎると周囲が開け、展望スポットへ。「わあー、すごい!」
眼下に広がるのは砺波の散居村。田んぼの水に夕日が入り込み、幻想的な光景が目の前に広がっていた。屋敷林に囲まれた7000戸にも及ぶ家々が水田の合間に点在し、この絶景を作っている。これも先人たちが自然と共生していくために残してくれた景色だと思える。多くの観衆と共に、日が山際に見えなくなるまで、ただ見惚れていた。
坂を下った先の井波(いなみ)の町に、職人仕事に触れられるというユニークな宿があると予約していた『TATEGU‐YA』へ。築50年の建具屋さんだった建物をリノベーションし、室内に彫刻家の田中孝明さんの作品がさりげなく展示してある一棟貸しの宿だ。入ってすぐが土間なので、自転車も屋内保管できるし、「大人数でじてんしゃ旅するなら最高なんじゃない!」という素敵な室内のあしらい。「こんな空間に泊まれるなんて、なんてぜいたく」。
翌日、井波の八日町(ようかまち)通りを散策。ここ井波は、井波彫刻と呼ばれる精巧な木彫刻が盛んで、職人さんの工房が何と約200軒も軒を連ねる日本一の木彫りの町だった。八日町通りのお楽しみは、家々の軒下などに隠れている猫の彫刻。見つけられたら、思わずほっこりしてしまう可愛らしさ。職人さんの作品や手仕事を間近に見られる店も多いので、立ち寄ってみてもらいたい。
そして、『瑞泉寺(ずいせんじ)』でも職人技術の粋を結集させた、見事な彫刻が施された建築を見ることができる。静かにそれらの彫刻を見ながら、富山のクラフトマンシップをここでも体感できて、めちゃくちゃ感動。
庄川沿いを砺波方面に戻りつつ、今回の旅を振り返る。高岡や井波の町がこれほど魅力あるとは全く知らなかった。“富山の本気”をダイレクトに感じたじてんしゃ旅だった。
<とやまサイクリングマップ 配布店>
https://www.cyclesports.jp/cycling-map/
田園サイクリングコースPR動画も公開中!