ヒルクライムでベストを尽くすには?〜本番まで残り1〜2か月

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ヒルクライムでベストを尽くすには?

ロードバイクに乗っている人なら、レース志向でなくてもヒルクライムレースにチャレンジする人は多い。皆さん本番まであと1〜2か月になってくると「そろそろちゃんと準備しなきゃ」と思い始めるはず。残り期間を有効に使い、本番でベストを尽くすための方法について特集しよう。

 

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実は残り1〜2か月では体は鍛えられない!? 本番で100%実力を発揮することに注力しよう

今回教えてもらうのは、サイクルスポーツ.jp初登場、元プロロードレーサーで現在はサイクリングインストラクターとして活動する、平塚吉光さんだ。

平塚吉光さん

平塚吉光(ひらつか よしみつ)さん。シマノレーシング、チームブリヂストンサイクリングといった国内のロードレーシングチームでプロロードレーサーとして活躍。引退後の現在は地元の伊豆を拠点としてサイクリングインストラクターとして活動している

 

「はじめに、元も子もない話をしますが、実は残り1〜2か月という期間では、鍛えることによって実力がアップすることはほとんどないと考えてください」。

……え!?

「もちろん、必ずしもそうとは限りませんが、受験生が受験本番1〜2か月で焦って勉強しても付け焼き刃にしかならないのと同じように、ロードバイクのトレーニングでも同じことが言えるんです。

本来トレーニングとは、目標とする大会から逆算して年単位で継続して取り組んでいかないと効果が出ないものなのです。焦って本番まで残り1〜2か月で鍛えようとすると、逆に疲労がたまりすぎて本番で力が出なかったり、体を壊してしまいがちなんです」。

うーん、耳が痛い。

「とはいえ、やはり皆さん残り1〜2か月から準備を始められるものですよね。その期間で本番までに準備し、自己ベストを出そうとするなら、“今持っている実力を本番で100%発揮することに全てのエネルギーを注ぐこと”が大事となります。

ポイントは2つです。

1つ目は、走り方や心がけなど、すぐに実践できることを実行することです。2つ目は、残り1〜2か月という期間の中で、“鍛える”とまではいかないまでも、本番で100%の力を発揮できるよう体を順応させていくことです」と平塚さん。

詳しく教えてもらおう。

 

ポイント① 飛ばしすぎない&ペース配分

ペース配分

6〜7割の力で、一定ペースで淡々と走り続けることが大切

 

「はじめに、これは走り方を変えることですぐに実践できることに当たりますが、“ペース配分です”。ヒルクライムはゴールまでずっと高い負荷が体にかかり続けます。また、標高が上がっていくため酸素が薄くなり、中盤〜終盤は思うように力が出なくなる場合があります。ですので、最後まで体力が切れないよう、最初から飛ばしすぎず、最後まで一定ペースで走り続けることがかなり重要です」。

最初から飛ばしすぎるな

多くの人は最初から飛ばしすぎて最後まで体力が持たない

 

「多くの人は、スタート直後は気持ちが盛り上がっていたり、周りの人について行こうとして飛ばしすぎ、後半で失速してしまうパターンが多いです。また、途中でダッシュして休み、またダッシュしてと、インターバルのような走り方をする人も多いです。

そうではなくて、ゆっくりでいいから淡々と走っていくことが、トータル時間で考えると速くなるのです」。

ペース配分が大切なのはわかったが、とはいえ最後まで一定ペースで走るのはかなり難しいものだ。何かペースを管理する方法はるのだろうか。

「自分の感覚値でいいので、6〜7割くらいの力で走り続けるようにしてみてください。最初はこんなペースでいいのかなと思うかもしれませんが、終盤にさしかかるとそれでちょうど10割の力を使っている感覚になるはずです。

それから、周りのライダーに惑わされないことも重要です。周囲は気にせず、自分のペースを守ることだけに集中してください。楽しくて気持ちがはやるのは分かるのですが……」。

パワーメーターを持っている人は? 最近はシリアスレーサーでなくても持っている人が増えてきた。

「パワーメーターがあれば、数字で管理できます。理想はFTPと呼ばれる、自分が1時間持つパワーを計測することなのですが、一般のライダーがFTPを計測するのは正直至難の業だと考えます。苦しい作業だし、計測する環境を整えるのもハードルが高い。

そこで、普段のライドの全体の平均パワーを何となくでいいので把握しておき、それを守ってみてください。もしこの数値がきついと感じれば、そこから数ワットずつ数値を落として、ちょうどいいところを見つけましょう」。

 

POINT② 疲れてきてもフォームを崩さない

疲れてくるとフォームが崩れがち

疲れてくるとフォームが崩れがち

 

「一定ペースで走るということに関連して、フォームを崩さないことも大切です。疲れてくると視線が地面に落ちて背中が猫背になり、肩が上がりがちです。こうするとうまく走れなくなってしまいます」。

良いフォームを崩さないように

良いフォームを崩さないように

 

「ですので、できるだけ視線は前へ向けて落とさないようにし、背中が曲がって猫背になり、肩が上がらないように心がけてください」。

 

POINT③ 軽いギヤを装着する

とにかく軽いギヤの装着を

とにかく軽いギヤの装着を

 

「これも今すぐできることです。現在ではかなり軽めのギヤを装着している人が多くなってきていますが、とはいえまだまだヒルクライム時の急勾配でギヤが足りなくなっている人を多く見かけます。

ギヤが足りなくなると筋トレをしているのと同じような状況となり、筋肉に余計な負担がかかるばかりか心肺機能にも負担がかかります。すると、当然ですがタイムが遅くなります。

ですので、それほど費用もかからずスポーツ自転車専門店ですぐ作業してもらえることなので、軽いギヤを導入しておき、本番で勾配がきつくなったらどんどんギヤを軽いものに変速していくようにしましょう。

最近ではフロント34T、リヤ34Tと、1:1のかなり軽いギヤ比が選択できるようになっています。このくらいあればどんな坂でも安心です」。

 

POINT④ 自転車の洗車をする/整備に出す

自転車の整備を

本番まで焦って鍛えるよりもよほど効果がある自転車の整備 photo:辻 啓

 

「ヒルクライムレースに限ったことではないですが、これもかなり重要です。特に駆動系が汚れているとロスが生まれ、明らかにタイムに影響します。ですので、大会本番に向けて洗車をして駆動系をきれいにしておくことが大切です。自分でできない人は、最近では洗車専門店も登場してきましたから、そうしたサービスを使うのも手です。

また、スポーツ自転車専門店へ整備へ出すことも重要です。本番まで残り1〜2か月あれば、十分にお店で整備してもらえる時間の余裕があります」。

 

POINT⑤ 日常生活でできる意識付けをする〜階段登り

階段1段飛ばし

階段を1段飛ばしで登る動作は実はヒルクライムにおけるペダリング動作と同じ!?

 

ここまでは今すぐ心がけ次第でできることについて教えてもらった。では、本番までの残りの時間で実際に自転車に乗ってやるべきこと、(1〜2か月という期間では鍛えられないということだが)自転車での運動をするという意味でやるべきこととは?

「自転車乗りの方で多いパターンは、平日はまったく乗る時間がなく、休日に3時間程度乗る時間が取れる、というパターンでしょう。そうした時間がない人には、平日を中心に日常生活で取り組める、ペダリング動作の意識付けを行うことが効果的です。

具体的にやってほしいのは、階段1段飛ばしです。ヒルクライムのとき、クランクが2時の位置にきたときに最も効果的に力をかけることができるのですが、このときにハムストリングスとお尻の付け根あたりの筋肉を意識して踏めるとうまくペダリングできるようになります」。

階段を2段飛ばしで登るときのポイント

階段を2段飛ばしで登るときのポイント。「手は荷物を持っていたりするかもしれませんが、できるだけ使う筋肉を触りながら登ってください」と平塚さん

 

「実は、階段を1段飛ばしで登る動作(または同じくらいの高さの段差を登る動作)は、この動きとほぼ同じなんです。ですから、エスカレーターやエレベーターにできるだけ乗らず、階段を1段飛ばしで、ヒルクライムのときのペダリングで使う筋肉を意識して登るよう心がけてみてください。これによって、ペダリング時に良い筋肉の使い方をする意識付けになります。これは私もプロ選手時代に取り組んでいたことです。

なお、人によっては脚の長さや柔軟性の問題で1段飛ばしが難しい場合があります。そうしたときは、無理をしてまで行う必要はありませせん」。

 

POINT⑥ 自転車に乗れる日は本番のスタート時間と同じ時間に走り始める

スタート時刻と同じ時刻に走り出す

大会によっては、スタート時間はまだ薄暗い早朝なことも

 

「これは走る時間が休日にしか取れない人も、走る時間が多く取れる人も共通です。

ヒルクライムレースの多くは、スタート時間が早朝です。ですので、それに合わせて起床し、朝食をとり、トイレを済ませ、スタートラインに並ぶために体を慣らしておくことがかなり大切です。

普段からこの流れに慣れておかないと、本番でも当然同じことはできず、体調を万全にすることはできません」。

 

POINT⑦ ヒルクライムを想定した物理的負荷をかける

平地で向かい風の中を走る

平地で向かい風の中を走る

平地でも重めのギヤで走る

平地でもケイデンス60〜70回転になるよう、重めのギヤで走る

 

「休日にしか乗れない&都市部に住んでいて山まで走りに行くのは難しいという方はかなり多いと思いますが、そうした人はヒルクライム本番を想定した物理的負荷をかけておき、ヒルクライムでの体の動かし方の意識付けをしておくことも効果的です。

例えば、サイクリングロードや平地しか走れない人が多いと思われますが、その場合は①向かい風をあえて走る②ケイデンスが60〜70rpm程度になる重めのギヤで走る、の2つに取り組み、擬似的にヒルクライムと同じ状況を作り出してみてください。

実は、これは先に紹介した階段を2段飛ばしで登るのと同じ効果が期待できるんです。ただ、例えば3時間走れるとして全部これを行うと体が壊れてしまうので、10分間など、きりの良い時間で区切って行ってください」。

 

POINT⑧ 試走に行く or 本番と同じ距離を上る

できることなら遠征して現地へ行ってみよう

できることなら遠征して現地へ行ってみよう

 

「これは走る時間が少ない人には特に行ってみてほしいことです。本番まであまり乗る時間が取れないのならば、全ての余暇時間を現地へ試走に行くことに費やしてもいいくらいです。

本番のコースを走ったことがあるのとないのとでは、かなり差が出ます。ペース配分を考えるうえでも、非常に効果的です。また、駐車場の位置、トイレの場所など、スタートラインまでスムーズに並ぶための調査になるという意味でも重要です。これを把握しておくと現場で焦ることがありません。

現地が遠すぎて行けないのなら、本番と同じ距離を上れる似たようなコースを探し、走ってみてください。これで本番の予行練習に近いことができます」。

 

POINT⑨ 走る時間が多く取れる人は本番を想定した強度・環境で走る

できるだけ上る

多く走る時間が取れる人は、できるだけ上り坂を上ってみよう

 

「最後に、平日に30分〜1時間、休日に3時間〜5時間程度など、たくさん走る時間を取れる恵まれた人もいると思いますが、そうした人に向けた自転車での運動方法についてです」。

インドアトレーナーでヒルクライム

平日にはインドアトレーナーで強度を上げて走ってみるのも手だ photo:茂田羽生

 

「一つは、本番を想定した高い強度で走る時間を設けていくことです。例えば、平日ならインドアトレーナーとZwiftなどのサービスを使い、ヒルクライムレースを想定したワークアウトをやってみると良いでしょう。

また、このくらい時間が取れる人は、比較的坂へ上りに行く時間が取れる人だと思います。ですので、自身の居住地から可能な範囲でいいのでできるだけ上り坂を上り、本番の強度に耐えられるよう、体に刺激を入れてみてください。

ただし、疲労がたまらないようにすることに注意してください。本番まで残り1〜2週間になったらガンガン走るのは控えて、回復に時間を費やしましょう。最初に説明したことの繰り返しとなりますが、残り1〜2か月という期間で重要なのは、本番で今持っている100%の力を発揮することに全てのエネルギーを集中することですから」。

 

いかがだっただろうか。多くの人は想像したのと違うことが紹介されていて、驚いたかもしれない。しかし、これが今回の条件でヒルクライム本番でベストを尽くすために重要なことなのだ。

年間単位で本番に向けてトレーニングしていく方法については、また別の記事で特集したい。