ジャイアント・プロペルアドバンスドSL インプレッション
目次
ジャイアントのエアロロード・プロペルシリーズがモデルチェンジを果たした。先代と比べてフレームの進化だけにとどまらず、新開発のパーツを組み合わせた完成車の状態で空力、軽さ、剛性、快適性、ポジション調整の自由度と全方位的に進化を遂げている。ジャイアントの最新世代の軽量オールラウンダーTCRアドバンスドSLに乗るライター・浅野真則が、新型プロペルの最上位モデル・アドバンスドSL0をプレビューしながら、その走りについてインプレッションを行う。
新型プロペルは「エアロ系オールラウンダー」
エアロ系オールラウンダー。新型プロペルを一言で言い表すならこの言葉が一番しっくりくる。僕はプライベートでもジャイアントの軽量オールラウンダーのTCRに乗っているが、新型プロペルには空力性能の高さがもたらす速さを前面に出しながらも、TCRとオーバーラップするオールラウンダーとしての総合力の高さも備わっていると感じる。
今回は新型プロペルを自宅に送ってもらい、いつも走り慣れた環境で最長100km、トータル120kmのテストライドを行うことができた。TCRでいつもトレーニングライドを行っているコースで向かい風の中、パワーメーターを見ないで淡々と走っていたら、サイクルコンピューターに示されるパワーはかなり低めなのに速度は時速30kmを優に超えていた。その速度域での巡航が、自分が愛用するTCRやその他の軽量ロードレーサーと比べて明らかに容易だとも感じた。
最新のTCRが発表された直後に初めて乗ったときにも「速度感覚が麻痺する」と感じたものだが、新型プロペルはそのさらに上を行く。これは同じスピードで走るのに新型プロペルはより少ない労力しか必要とせず、同じ労力ならより速いスピードで走れることを意味する。
これをレースに当てはめて考えるなら、高速巡航しながら体力を温存できるだろうし、アタックやスプリントでの最高速も上がるだろうし、スプリントを早めに仕掛けられることにもつながるだろう。ツール・ド・フランス2022でジャイアントのサポートを受けるバイクエクスチェンジのスプリンターが新型プロペルでステージ2勝を挙げたように、スプリンターにもいいだろうし、高速巡航性能を生かすことのできるルーラーにもいいだろう。個人的にレースでこのバイクに乗れるなら、自分の脚質を最大限に生かして積極的に逃げたいと思えた。
レースだけでなく、空力性能の高さはロングライドでも生きるはずだ。何しろ強度をセーブしながらも高速巡航が容易にできるのだから。
軽さも快適性の高さもぬかりなし
エアロロードというと快適性や重量に不満を感じるバイクも少なくない。しかし新型プロペルに関してはその心配は無用だ。
乗り味はレースバイクらしくカッチリしていて剛性感もある。ジャイアント独自のヘッドチューブ上部に1-1/2″の大径ベアリングを採用するオーバードライブ2がケーブル内装に対応するオーバードライブエアロに進化したが、相変わらずヘッドまわりやコックピットのカッチリ感は健在。ハンドルを軽く押し引きしながら上半身の力を生かしてペダリングする際、ダウンチューブやBBまわり、チェーンステーにかけてのフレーム下部がどっしりとそれを受け止めて、ペダリングパワーをしっかり後輪に伝える印象だ。だが、硬すぎて体がやられるとか踏み負けるほど硬すぎるわけでもない。
特筆すべきは、ISPタイプの細身のベクターシートポストがもたらすシッティング時の快適性だ。路面からの衝撃を細身のベクターシートポストがかすかにしなることでいなし、快適性を高めながらペダリングにも影響を与えない。さらにチューブレスレディ対応の足まわりを採用することで、走りやホイールの転がりの軽さを犠牲にすることなく空気圧を下げられる。乗り味は滑らかでレースバイクとしては快適性も必要十分だ。
重量に関しては、TCRと新型プロペルのアドバンスドSLグレード同士の完成車を比較すると、新型プロペルの方が200gほど重い。その影響もあって、長い上りではTCRの方が軽快でパフォーマンスも高いと感じるが、それ以外のシーンでは新型プロペルの速さが際立つと感じた。上りでも短い上りはそこに至るまでの平坦や下りのスピードを生かせるので、むしろTCRより速く走れるぐらいだ。おそらくカデックスの新型のエアロホイール・カデックス50ウルトラディスクが50mmハイトで空力性能に優れているうえに、重量も1349gと軽いのが効いていると思われる。
このホイールに関しては、ハイトが高くて重量が軽いこともあって、横風の中ではやや挙動がナーバスに感じられた。とはいえ、コーナーや下りで浮遊感を覚えたり腰高な感じがするほどでもなかったので、新型プロペルとの組み合わせであれば慣れてしまえば問題のないレベルだろう。
新型プロペルの実車から速さの秘密に迫る!
新型プロペルの速さはどこから来るのか? ここからは実車の細部から新型プロペルの速さの秘密に迫っていこう。
1.空力性能
新型プロペルの速さをもたらす最大の要因のひとつは空力性能の高さだ。空力性能の高さだけでなく、軽さや剛性も高い次元で兼ね備える。
●フレーム各部に採用された「トランケイテッドエリプス形状」
まずフレームに注目すると、ヘッドチューブやダウンチューブ、シートチューブ、シートチューブなどの断面形状を楕円形の一端を切り取った「トランケイテッド・エリプス形状」とし、空力性能を高めながらも剛性や快適性の向上、軽量化も進めている。しかも同じトランケイテッド・エリプス形状でありながら「各チューブで微妙に形も変え、空力性能を最適化している」(ジャイアント開発担当者)という力の入りようだ。
●オーバードライブエアロシステム
もちろんケーブルはフル内装。新たに開発されたコンタクトSLRエアロドロップハンドルバーとコンタクトSLRエアロステムを経て、D型の断面となったフォークコラム前方からケーブルをフレームに内装する。これらを総称してオーバードライブエアロシステムといい、新型プロペルの重要テクノロジーのひとつに数えられる。
●専用設計のボトルケージ
新型プロペルのために開発された専用設計のボトルケージ。装着時にボトルケージとフレームの隙間が少なくなるため、ドラッグが発生しにくい。新型プロペルの開発では、実際のライド環境を忠実に再現するため、動的マネキンを使い、ボトルを搭載した状態で風洞実験を行ってきたが、その産物だ。
●カデックス50ウルトラディスクとエアロチューブレスタイヤ
プロペルアドバンスドSL0完成車には、先日登場したばかりのホイール、カデックス50ウルトラディスクが搭載される。新しいリムプロファイルやハブ形状、エアロカーボンスポークを採用するリムハイト50mmのホイールは、チューブレスレディ対応でありながら前後セットで1349gと軽量。セラミックベアリングを採用し、空力性能と軽さ、優れた回転性能を高い次元で兼ね備えている。タイヤもカデックスの新製品、エアロチューブレスタイヤ。サイドウォールが薄くセンター部が厚い楕円形状を採用し、カデックスやジャイアントのフックレスエアロリムとシームレスなインターフェースを実現することで、空力性能を高める。転がり抵抗の低さも特徴だ。ホイールとタイヤをチューブレスレディとすることで、転がり抵抗の少なさを犠牲にすることなく、低めの空気圧で運用できるため、快適性向上にも貢献する。
2.快適性
「エアロロード=乗り心地」が悪いという過去の常識を打ち破る、レーシングバイクとしては破格の快適性を実現している。このことは長時間ライド時の疲労を抑え、長時間のライドの最後までライダーがパフォーマンスを発揮できることにつながる。
●ISPタイプのベクターシートポスト
新型プロペルのうち、ハイエンドモデルのアドバンスドSLグレードフレームは、フレームとシートポストが一体になったISPタイプのベクターシートポストが採用される。空力性能を追求するため断面形状をトランケイテッドエリプス形状とし、先代モデルと比べて細身とすることでしなりやすくして快適性を向上させる。
3.ポジション調整の自由度の高さ
エアロロードだけでなく、専用設計のコックピットやシートポストを採用するバイクが増える中、新型プロペルはコックピットやシートポストに専用品を採用しながらもポジション調整の自由度を確保。ライダーの体型にバイクをフィットさせ、高いパフォーマンスを発揮できる土台を提供する。
●コンタクトSLRエアロシリーズのコックピット
新型プロペル用に開発されたコンタクトSLRエアロシリーズのハンドルバーとステム。専用品でありながら、一体型ではなく2ピースタイプとすることで、ハンドル幅とステムの長さを自由に組み合わせ、ハンドル角度(送り、しゃくり)の微調整も可能だ。ハンドルの高さを調整するステム下のコラムスペーサーは、完成車・フレームセットともに10mm×3枚、5mm×2枚、2.5mm×2枚が付属する。コラムスペーサーは前後分割できるようになっていて、ケーブルを外さなくても着脱が可能だ。
ステム高に調整の幅を残しておくために、コラムをやや長めに残しておきたい場合、ステムとトップキャップの間にはオーバードライブ2規格の真円のコラムを積むことで対応できる。
●ISPのシートクランプ
ISP用シートクランプはスタンダードと、サドル高の初期値を10mm高くできるロングの2種が付属。さらにISPの上端にスペーサーを入れることができる。スペーサーは1mm×2枚、3mm×1枚、5mm×1枚、10mm×2枚が付属するので、組み合わせることで1mm単位で調整できる。スペーサーを入れると、スタンダードはサドル高を最大20mm、ロングはスタンダードより初期値で10mm高く、
気になるポイントもあるが、TCR乗りの自分も乗り換えたくなるレベル
新型プロペルの完成度の高さは申し分ないのだが、気になったポイントはゼロではない。重箱の隅をつつくようではあるが、以下に列挙しておく。
ひとつは新開発されたコンタクトSLRエアロシリーズのハンドルバーとステムについてだ。ハンドルは幅が最も狭いもので400mm、ステムはライズが-10°の1種類しかないのは気になる。小柄な人が乗ることや最近のエアロロードのトレンドを考えると、せめてハンドルは幅380mmから展開してほしい。また、自分の場合、適応身長ベースではフレームサイズはSでもMでも対応するのだが、Mサイズだとヘッドチューブが145mmあるため、現在発売されているステムではポジションが出せない。コンタクトSL OD2ステムに用意されているようなライズが-20°のステムもあるとコックピットまわりの調整がよりきめ細やかにできてよいと思う。せっかくポジション調整の自由度の高さをうたっているのだから、ここは早急に改善してほしい。
もうひとつは、ステアリングコラムを残してハンドルの高さを低くするとき、ステムの上にスペーサーを積む場合に付属のものがそのまま使えないことだ。スペーサーがエアロ形状になっていて、ステムの上にこのスペーサーを着けようとするとステム上面の形に合わないため着けられないのだ。もしコラムを残してステムの上にスペーサーを使う場合は、別売のオーバードライブ2用の丸形のコラムスペーサーを用意する必要があるという。このバイクに丸形スペーサーでは見た目を大きく損なってしまう。キャニオンの専用エアロハンドルのようにコラム上部と下部で別のスペーサーを用意してもらえると、見た目もより洗練されていいのではないか。
とはいえ、ここまで完成度が高いと、TCR乗りの自分でも乗り換えたくなるレベルだ。もし新型プロペルかTCRかで悩む人がいるなら、ヒルクライムレースを主戦場としないのであれば、長い上り以外でTCRと同等以上に速く走れ、快適性なども含めた総合力も高い新型プロペルを選べば間違いない。