「ラファエクスプロアプレステージやくらい」が初開催。GKSのグラベルライドレポート!
目次
8月27日(土)に宮城県加美町にて、ソーシャルライドイベント「ラファエクスプロアプレステージやくらい」が開催された。ラファが行うライドイベント「プレステージ」シリーズの中でも、コースによりグラベルロードの比重が置かれた「エクスプロア プレステージ」として初の開催となるこのイベントに、関西の自転車企業のグラベル仲間達と本誌エリグチが出走してきたぞ!
ラファ エクスプロア プレステージ
英国初のサイクリングアパレルブランド、ラファが世界中で行っているソーシャルライドイベントが「ラファプレステージ」シリーズ。特別なサポートなしに仲間と協力しながらチームで走り抜くというこのライドイベントは、日本でも2012年の野辺山で行われた「ジェントルマンズレース」から名前を変えつつ開催されてきた。
そのプレステージシリーズは、2022年現在の「グラベル」という名前が一般的になる以前から、未舗装路を含んだコースが設定されてきたことが一つのトピック。リムブレーキ、23Cのタイヤサイズのロードバイクで過酷なコースをメンバー揃って走り切るという冒険的なこのライドは、多くのコアなサイクリストを魅了してきた。
そんな同シリーズにおいて、近年のグラベルロード人気に呼応するかたちであらためて未舗装路の比率を上げたイベントとして行われるのが、同社アパレルのアドベンチャーラインと同じ名前を持つ「エクスプロア プレステージ」シリーズとなる。
2020年から本大会は計画されていたがパンデミックの影響で開催が延期され、この2022年8月27日(土)に遂に宮城県加美町一帯のエリアにて開催された。総距離120km、獲得標高2605m、未舗装率約47%というハードなコースプロフィールだが、総勢110人超え、28のチームが出走したのである。
そんなエクスプロアプレステージやくらい(以下、プレステージ)だが、上述の通りチームで参戦するライドイベントであり、今回は最小3人から最大5人での出走が必須となっていた。
そんなプレステージが開催決定となった今年の初夏。うだるような暑さから逃れるために大阪駅ビル地下2階にある立ち飲み屋で、グラベル仲間、もとい飲み仲間でもあるパナレーサーの三上さんと瓶ビールを空けながら話していると
「そういえば今度のラファのプレステージがめっちゃグラベルみたいっすね」
という話が出た。
「じゃあ出ます? でもメンバーどないしましょか」
「シマノの鞍谷さんとか最近すごい走ってるみたいですよ」「そういや今日の取材でキャノンデールのカズさんがアンバウンドめっちゃ楽しかった言うてはりましたわ」「小川くんも来るよね」
「じゃあみんなで出ますか!」
と、そんなノリで各メンバーに声をかけ、結果的に関西を拠点とする自転車関連の企業によるチームが結成。その名も「Gravel.Kansai.Squad」、略して「GKS」だ。
改めてチームメンバーとなったのは、キャノンデール・ジャパン(大阪府吹田市)の山本和弘さん(通称カズさん)、シマノセールス(大阪府堺市)の鞍谷融紀さん、パナレーサー(兵庫県丹波市)の三上勇輝さん、オージーケーカブト(大阪府東大阪市)の小川裕輔さん、そして僕ことサイスポ(吹田に大阪支社があり、よくいます)のエリグチの総勢5人である。
それぞれ公私ともども自転車に乗り、自転車についての情報発信を行う彼らだからこそ、あらためてこのプレステージを共に走ってみよう。そして何より、無事完走して我々の求めるグラベルを発見しよう! そんな目標を掲げて、一団は遥か宮城県へ向かった。
「加美富士」、薬莱(やくらい)山麓から
前日まで降り続いた雨が止むとともに空が白み始めた早朝5時。メイン会場となるペンションKAMIFUJIにはブリーフィングを終え、順次2分ごとにスタートを始めるライダーたちの姿があった。キャノンデール・トップストーンやスペシャライズド・クラックス、あるいはビルダーによるオーダー品など、さまざまな種類のグラベルバイクとともに、チーム全員でジャージを揃えたグラベルサイクリスト達が次々にスタートラインを超えていく。
GKSの我々は今回はサイクルジャージスタイルで行こう、とのことからラファの「メンズ プロチーム フライウェイト ジャージ」の「ダークオレンジ×オレンジ」でカラー、アンダーはそれぞれカーゴビブ、ソックスも「メンズ プロチーム グラベル ソックス」で揃える。ヘルメットは相性もあるので、カブトとレイザーのヘルメットをそれぞれホワイトカラーで統一した。
コースとなるエリアの宮城県の加美町は、「加美富士」と呼ばれ親しまれる標高553mの薬莱(やくらい)山が中心にそびえ、その麓には雄大な牧草地、そして大崎平野の田園が続くという、どこか懐かしい里山風景が何層にも広がっている。
その薬莱山のすぐ麓に構えるペンションKAMIFUJIを基点とした120kmのグラベル旅だ……ともの思いにふける暇もなく、出発して3kmもたたずにさっそく未舗装路の上りは始まってしまった。しかもこのグラベルヒルクライムが長い! それに加えて前日までの雨で路面状況は完全にウェット、水たまりの泥はもちろん落ちた木の枝も点在し、路面のコンディションはなかなかのハードモード。実際最後尾近くから走り出したGKSだが、その上りの途中でメカトラで停止している何グループもを追い越してくることとなった。
そんな中、元プロであり現在もトップレーサーであるカズさん、そして鞍谷さん三上さんとかなり良いペースで上りをこなしていく。
が、三上さんがパワーメーターを見ながら「そういえば、小川くんはグラベル上りで150W以上踏むとちぎれます」と言っている。振り返ると少々後方に小川くんの姿が。これは長いライドとなりそうだ。
序盤約40kmで、完全マッドコンディションでテクニックを要する下りを経て、もはやグラベルはお腹いっぱいじゃないか、そんな事を話ながら第一チェックポイントにたどり着く。ラファの矢野大介さんからホットコーヒーをいただき、先に到着していた周囲のチームを見渡すとその表情はさまざまだ。
既にグラベルを満喫しきって満足げな人、この残りの距離に少々こわばっている人、あるいはメカトラを心配そうに見つめる人。この40km足らずでそれぞれのチームで展開があったのだろう、それを仲間達と共有しているからこそ、チームごとの雰囲気がある。
先の下りで機材も体もウェアも完全に泥だらけになってしまい、僕の取材カメラも瀕死状態。そこからは舗装路のアップダウンがしばらく続き、調子が出てきたと思ったら再びグラベルへ突入だ。
「ぼちぼち気温も上がって熱くなってきたし、そろそろ入りたいっすね。川とか」
そんなことをぶつぶつとエリグチが言っていると、先頭で林道のワインディングを下っていたカズさんがブレーキをかける。
「滝ですよ! 滝!」見ると、白糸のように見事な滝が道路脇の小路の奥に流れ落ちている。どうやら道路の隅の方から滝のそばへ下りていくことができるらしい。僕たちは迷わずその水辺に足を浸ける。
「めっちゃ冷たい!気持ちイイ!」
そんなカズさんの楽しそうな姿に続くように、僕らも滝から流れる清流に体を浸し、そして体やウェアの泥を落としていった。
グラベルを巡る物語
70km地点。久々に大きな国道に出て来たので、コンビニでランチと補給食を買い足す。
「そろそろ後半戦を走りますか」と走り始めてすぐ、硫黄泉の硫化水素のにおいが鼻孔を刺激する。ここは、鳴子の温泉街だ。
「あそこに温泉の湯気が噴き出てますよ! しかもいくつもある。あ、あれ足湯ですよ。ちょっと、ちょっとだけでいいから入りましょう!」
温泉に目がないエリグチが声を上げつつ皆を引き連れるかたちとなり、ランチ休憩から数kmでまたしても小休止。だけどこの鳴子温泉郷は奥州三名湯の一つに数えられる由緒ある温泉地で……とそんな説明をよそに、滝行で既に泥汚れを落とした脚を足湯に浸けて、今度は本当の休足だとくつろぎはじめる。
「ぜんぜん進まないけど、これが僕たちのプレステージですね」。そんな小川くんの一言はまさにGKSのライドそのものを表していた。
いよいよ残り30kmほど。もう残る山岳は3つ。またしても長いグラベルの上りが始まり、僕たちの息も上がっていく。120Wオーバーで踏むと小川くんはいなくなっていった。路面は少しずつ乾きはじめ、全身を使うようにしてグラベルの上りでバイクを進ませていく。
そうしてたどり着いたピークからの下りは、完全なるご褒美グラベルだった。そしてそのダウンヒルの道程は、各自が装着したシマノ・GRXカーボンホイール(WH-RX870)と、パナレーサーのグラベルキングのチューブレス状態が想像以上にベストマッチングし、リム内幅25mmと700×43Cのタイヤによるエアボリュームによってウェットで締まった砂利上を浮かぶように下り続けて行く。
「僕らは仕事として製品を作り送り出しているわけだけど、その製品そのものの品質や性能が良いというのはもう当然のことで。それをどうやって使うのか、それがどんな環境で優れているのか、それらを理解してこれまで以上に発信して伝えることが今こそ大事だし、おろそかにしちゃいけないんだな、とグラベルを走りながら改めて思うよね」そんな鞍谷さんの言葉に我々はうなずいた。結局のところ、楽しく走らないことにはその価値は見出せないのだ。
今回のコースはRCCの仙台在住の方が自身のライド経験をもとに引いたもの。普段から走り尽くしているコースだからこそ、どこにどのタイミングでどんな未舗装路を持ってくるかを考え尽くしたのだろう。この下りは、そしてその先のフィニッシュ直前に待っていた薬莱山へ続く白いグラベルは、あまりに素晴らしいタイミングで僕たちの前に現れ、それは日本の他にどこでもない、ここでしか走ることのできないであろう特別な道だった。
サイクリングはその一度のライドがまるで一つの作品であるかのような展開を持ちうるものだ。そこにグラベルという冒険的な要素が混ざり合うことで、走る体験はよりドラマチックなものになる。
そんなライドはもちろん一人で楽しむことも贅沢だけれど、気心知れた仲間やコミュニティのなかでライドを共有し語り合うことで、もっとその質が高まっていく。
そんな事を思いながら、アフターパーティのGKSの席ではビール瓶が空き続けていった。
Gravel.Kansai.Squadのメンバーたち
シマノの新製品発表会やブース展示に登場する鞍谷さん。トレック・チェックポイントに、シマノのグラベル用コンポーネント、GRX DI2をアッセンブル。リヤのみにフェンダーを取り付け、雨上がりのマッドコンディションに備えた。その効果は驚くほど!
注目は先日発売されたGRXシリーズのカーボンホイール「WH-RX870」。前後で1461gと軽量で、リム高さ32mm、リム内径25mm。チューブレス対応で、鞍谷さんはパナレーサー・グラベルキングSK700×43Cをフロントに、セミスリックのグラベルキングSS700×43Cをリヤにセッティングした。
パナレーサーの名物広報マン三上さんはリドレーのエアログラベルバイク、ファストカンゾが愛車。フロントはシングル(42T)でリヤはGRX DI211速の11-42Tを採用する
エクスプロアプレステージでも圧倒的なシェアを誇るパナレーサーのグラベル用タイヤ、グラベルキングをチューブレスで運用。タイヤは前にグラベルキングのSK700×43C、リヤにグラベルキングのSS700×43C。
カブトの若手広報小川さん。グラベルライドは人生で4度目(!)ながら、GKSの面々とともに120kmを完走した走り屋だ。リドレーのカンゾ(カーボン)とシマノ・機械式GRX(フロントダブル)で挑んだ。
マルチパーパスデザインとして、グラベルをはじめとしたオフロードから都市部でのライドに向けてデザインされたバイザー付きヘルメット「FM-X」を小川さんはセレクト。上部の空気孔部分にはアイウェアもマウントできる
元プロロードレーサーで現在も積極的にレースに参戦するキャノンデールのカズさん。バイクは同社としてはエンデュランスモデルに分類されるシナプスカーボン1RLE、シマノ・デュラエースR9270組みで参戦
エンデュランスロードのためグラベルほどのタイヤキャパシティはないものの、カズさんは700×35CのグラベルキングSKを前後に装着して完走。「GRXカーボンホイールとの相性がバッチリで、これがこのバイクの最高のセッティングだと感じます!」
まいどサイクルスポーツ編集部エリグチ。ラファのフライウェイトジャージは雨に濡れても川に浸かっても温泉に入っても、すぐにサラリと乾いていくので、これから温泉探索ライドはこのスタイルがいいなと思いました