20万以下ロードバイク一気乗り!ジャイアント–アサノ試乗します!その43
目次
中島編集長(左)、ライターアサノ(右)
さまざまなブランドの完成車を乗り比べ、パッケージングの分析や乗り味の評価を行う連載「アサノ試乗します!」。サイクルスポーツ中島丈博編集長とともに、20万円以下のロードバイク3台を乗り比べる企画の2台目として登場するのは、ジャイアントのエントリーロード・コンテンドAR4だ。
ジャイアント・コンテンドAR4のプレビュー
ジャイアントのアルミフレーム採用のロードバイク・コンテンドシリーズは、リムブレーキ仕様のコンテンドとディスクブレーキ専用設計のコンテンドARがラインナップされる。
ディスクブレーキ専用モデルに与えられる「AR」とは、オールロードコンセプトの頭文字をとったもの。フラットマウント仕様のディスクブレーキのほか、前後12mmスルーアクスルを採用し、最大700×38Cのタイヤに対応。高めのスタックハイトで上半身を比較的起こしたリラックスしたフォームで乗れるポジションが実現可能なのが特徴だ。
これらの特徴により、きれいな路面の舗装路だけでなく、舗装が荒れた路面や、ライトなグラベルもカバー。ロングライドを安心して楽しめる、オールロードコンセプトという名の通りのキャラクターだ。
コンテンドAR4は、コンテンドARの中では最も手の届きやすい価格を実現したモデル。D型断面で振動吸収性を高めるD-FUSEシートポスト、チューブレスレディ対応ホイールを標準装備するなど、上位モデル譲りのスペックを誇る。
コンテンドAR4の細部をチェック
続いて、コンテンドAR4のフレームやフォークなど車体の細部、装備されるパーツをチェックしよう。
フロントフォークは、最大38mm幅のタイヤを履きこなすクリアランスが確保されている。標準装備されるのは、700×32Cのクリンチャータイヤだが、さらに太めのタイヤをはける余裕がある。
フロントフォークは、コラムまでカーボンのフルカーボン製で、下側のコラム径が1-1/4インチと上側より大径になっているテーパーコラムを採用。振動吸収性に優れ、ヘッドまわりの安定感が操縦安定性の向上に貢献する。ディスクブレーキキャリパーはフラットマウント規格の機械式。前輪の固定方式は12mmスルーアクスルだ。
BBはスクエアテーパーBBや四角軸BBと呼ばれるかつてはスポーツバイクでも一般的だった規格。BBシャフトが正方形になっていて、ここに左右クランクをはめ込む3ピースタイプ。コストダウンの跡が見て取れるが、レースで使うのでなければ何の不満もない。
メインコンポーネントは、シマノのエントリークラスのロードバイクコンポーネント・クラリス。2×8スピードで、チェーンリングは50/34T、スプロケットは11-34Tとなっている。上位モデルと比べると変速段数がやや少なめでリアのギヤ間の歯数差が大きめだが、最も軽いギヤ比が1対1になり、トップも11Tが用意されるので、レースでなければ必要十分。急勾配も平地巡航もそつなくこなす。
シートステーには、フェンダーを取り付けるためのダボが設けられている。雨の日でもガンガン走りたい人や通勤ライドで使いたい人にはうれしい装備だ。
標準装備されるタイヤは、ジャイアントのクリンチャータイヤS-R3 ACの700×32C。転がりの軽さとグリップを両立するオールコンディショントレッドを採用し、耐パンク性能にも優れる。ホイールはチューブレスレディ対応。このバイクが履きこなせる最大幅の700×38Cのチューブレスレディタイヤを履かせれば、車名の通りオールロード的な使い方も楽しめそうだ。
CONTEND AR 4
価格:15万9500円
カラー:ブラック、ヘマタイト
素材:アルミ
サイズ:XS、S、M、ML
メインコンポーネント:シマノ・クラリス
ホイール:ジャイアント S-R2ディスクホイールセット 24H 12mmアクスル
詳細(https://www.giant.co.jp/giant22/bike_datail.php?p_id=00000024)
アサノ&ナカジ編集長のインプレッション
ライターアサノとサイクルスポーツの中島編集長の2人でコンテンドAR4を乗り比べ、このモデルの長所だけでなく、気になったポイントもホンネで語る。
ジャイアントらしさを感じさせる力強いフレームデザインは魅力
浅野 20万円以下で買えるロードバイク3台乗り比べの2台目はジャイアントのアルミフレームロードのコンテンドAR4です。メインコンポーネントがシマノのロードバイクコンポーネントのクラリスで2×8スピード、ブレーキはテクトロの機械式ディスクブレーキ。ホイールはチューブレスレディ対応、価格は15万円台後半というパッケージです。
中島 ぱっと見の印象で行くと、個人的にはサイドビューが力強いデザインで好きですね。ヘッドチューブが長いので、ジャイアントが「コンパクトフレーム」として先鞭をつけ、今やロードバイクでも常識になったスローピングフレームのデザインが強調されている感じで、いかにもジャイアントらしいアイデンティティを感じます。
浅野 確かにヘッドチューブが長いですよね。今回試乗したMサイズで150mmあるので、初心者に優しいハンドル位置が高いポジションを出しやすいのは魅力です。スポーツバイクに初めて乗る方がロードバイクを尻込みする理由として「前傾姿勢の強い乗車姿勢が不安」という声も聞きますし、ハンドル位置を高くしてもコラムスペーサーをたくさん入れなくてもいいので見た目がスマートですよね。……とはいえ、個人的には僕のように身長に対して腕が長いサイクリストだとポジション出しにちょっと苦労するかな、という気がしています。仮に僕が身長に対して適正サイズのMサイズのこのバイクでポジションを出そうとすると、コラムスペーサーなしでステムをめいっぱい下げて、さらに前下がりのステムを付ける必要があります。まあ、そんなケースはレアだと思いますが。
中島 見た目でもうひとつ印象的だったのは、太いタイヤを履いているな、ということです。タイヤは前回のビアンキ・ヴィアニローネ7と同じ700×32Cですが、明らかにコンテンドの方が太く見えますね。「ロードバイクのタイヤは細くて不安」と感じるスポーツバイクビギナーは意外に多いので、タイヤが太いことはビギナーにとって安心材料になるのでは。そういう意味では「初めてのロードバイク」として選びやすいでしょうね。
浅野 コンテンドのディスクブレーキ仕様ARが「オールロードコンセプト」から来ているそうなので、オーソドックスなロードバイクというよりは、太めのタイヤを履かせて荒れた道も比較的スムーズな未舗装路もカバーすることを視野に入れているのでしょうね。個人的にはロードバイクビギナーであまりレース志向がない人が最初に選ぶバイクは、こういうオールロード的なバイクがつぶしがきくのでいいと思ってます。オンロードも普通に走れて、グラベルバイクほどではないにしてもちょっとした未舗装路も走れるので、行動範囲が広がりそうですよね。
足まわりにコストがかかっているのはいい
浅野 ほかに細部で気になったところはありますか?
中島 スクエアテーパーBBの3ピースクランクっていうのが、今どきのスポーツバイクにしては珍しいし、懐かしいなと。今やシマノもカンパニョーロも構造こそ違えどクランクとBBシャフトが一体になった2ピースクランクがほとんどで、スポーツバイクでこのタイプのBBを見ることが本当に少なくなりましたよね。
浅野 僕もスポーツバイクでは久しぶりに見ました。前回のヴィアニローネ7ディスクには、20年近く前のデュラエースに採用されていたオクタリンク仕様のBBが使われていましたが、それを見て「懐かしい!」なんて話をしていたところでしたもんね(笑)。
中島 スクエアテーパーBBはオクタリンク以前からある規格ですからね(笑)。とはいえ、ビギナーがユーザーレベルでクランクやBBをいじることはあまりないでしょうし、「BBまわりの剛性が……」とかも気にしないと思うので、サイクリングとかロングライドを楽しむ上では特に不満はないと思います。
浅野 重量増にはつながるのでしょうが、コスト削減の効果が大きいのでしょうね。その分他のところにコストをかけていると思えば、僕もこのパーツ選択には納得です。そうなると、どこにコストをかけているのかというのも気になりますね。
中島 メインコンポーネントはシマノの8スピードコンポーネントのクラリスで、ディスクブレーキはテクトロの機械式なので、そこまでコストをかけている感じではないですよね。コンポーネントに関しては、前回のヴィアニローネのほうがよりグレードの高い9スピードコンポーネントのシマノ・ソラを使っていた分、コストがかかっている印象ですね。コンテンドAR4は、歯数構成は最近のエントリーロードに多い前50/34T、リア11-34Tなので、急な上りでも下りや平地の巡航でもレースでなければ十分楽しめますが、8スピードなので1段ごとの歯数の変化が大きくなるのは避けられず、「このギヤとこのギヤの間のギヤがほしい!」とはなりがちですね。……初心者はもしかしたらそこまで気にしないかもしれませんが。
浅野 となると、コンテンドAR4でコストがかかっているのはフレームセットというか、車体なんでしょうね。フロントフォークのコラムが上1-1/8インチ、下1-1/4インチのテーパーコラムになっていますし、シートポストはD型断面の専用品・D-FUSEが採用されていて、シートクランプもフレームに内蔵されているので、見た目もスマートです。ヘッドまわりがしっかりしているのでコーナーを走る時も制動時も安心感がありましたし、D-FUSEシートポストはアルミ製ながらD型断面で丸形のシートポストより若干しなりやすいからか、路面からの突き上げも他のバイクと比べてマイルドで快適性が高いように感じました。
中島 ホイールもチューブレスレディ対応なので、コストがかかっていそうですね。これはとてもいいコストのかけ方だと思います。ビギナー向けのロードバイクって、ホイールやコンポを載せ替えるような大がかりなアップグレードをする人って少なくて、それなら2台目にもう少しいいバイクを……ってなりがちだと思うんです。だからアップグレードするとしても、せいぜいタイヤを替えるとかバーテープやサドルやペダルを変えるぐらいだと思うんです。タイヤのチューブレス化は、転がりの良さを犠牲にせず乗り心地を改善しやすいので、ライドクオリティが一段高まると思うんです。しかもコストもホイールをアップグレードするほどかからないですし。
浅野 個人的にはとてもチューブレスはいいと思いますし、僕自身もチューブレス愛用者ではあるのですが、このバイクのメインターゲットであろうビギナーが運用するには少しハードルが高いと感じる部分もあります。チューブレスレディはタイヤの中にシーラントを入れるので、小規模な貫通パンクならシーラントが穴を塞いでくれて、パンクでのトラブルは少なくなると思いますが、シーラントでふさがらなかった場合の外でのパンク修理やタイヤ交換は難儀するかもしれません。普通のフロアポンプでなく、サブタンク付きのやや高価なタイプがあったほうが格段に作業が楽ですし、シーラントの扱いとか、外でのパンク修理など、クリンチャータイヤとは違う扱い方が求められますしね。コツをつかめばなんとかなるので、ぜひ場数を踏んで慣れて、チューブレスの良さを味わってもらいたいと個人的には思いますが。
完成車のパッケージもいいが、“キャラ変”しても長く乗れる1台
浅野 カタログを見ていて気になったのは、サイズ展開です。コンテンドARは適応身長の幅が広く、ジャイアントによると身長155cmから190cmまで対応するとあります。ただ、フレームサイズは4サイズ展開で、適応身長で見ると複数のフレームサイズが対応するケースがあるんですよね。例えば日本人男性の平均身長に近い身長170cmの場合、ジャイアントが発表している適応身長だとXSでもSでもMでも対応するので、3サイズが選べることになり、どれを選ぶべきか悩ましいような気がします。ヴィアニローネが5サイズ展開、次回紹介するキャニオン・エンデュレース6は8サイズ展開なので、ジャイアントは適応身長に対してサイズ展開がかなり大まかなように感じますが、そのあたりはどう思いますか?
中島 ジャイアントは台湾に本拠があるブランドで、アジアのマーケットを大切にしているので、多くの日本人が乗りやすいと感じるんじゃないでしょうか。完成車のパーツもサイズによって違うものが付いていて、ステムの長さはXSが80mm、Sが90mm、MとMLが100mmです。ハンドル幅はXSとSが400mm、MとMLは420mmですね。クランク長はXSとSが170mm、MとMLが172.5mmです。
浅野 フレームサイズごとにパーツのサイズも異なるのはユーザーに親切ですが、XSとMのクランク長は適応身長を考えるともう少し短いものがベターかもしれませんね。購入時はできれば複数のサイズを試乗して乗り比べてみて、ショップの方と相談しながら自分にしっくりくるサイズを選ぶのが良さそうですね。その上で必要に応じてステムとかハンドルの幅をカスタムして乗れるとベストですね。
中島 最後にこのバイクをおすすめしたい方について考えて閉めましょうか。個人的にはすごく乗りやすいバイクだと感じたので、今回の3台の中ではビギナーが1台目のバイクとして乗りやすさ重視で選ぶならベストかなと思いました。
浅野 同感です。完成車のパッケージの状態で乗りやすさに関しては大きな不満がないので、すぐに手を入れたくなるところは少ないですね。後は走るフィールドや好みによってタイヤを細くしたり太めにする“キャラ変”をしてもそつなくこなす印象を受けますね。さすがに本格的にロードレースをするには厳しいかもしれませんが、28Cぐらいの細めのタイヤを履いたら舗装路や上りでの軽快さがより増してオンロードのロングライドをより速く走れそうですし、キャパシティ内最大の38Cにすれば、ちょっとしたグラベルも走れて行動範囲も広がりそうです。そういう意味では初めてロードバイクに乗る人にも乗りやすいけれど、長くも乗れる1台だという気がしました。