サガンもゲスト来日! スペシャライズド関係者向けイベントレポート&インタビュー
目次
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トークショーを行うサガン
9月28日~30日の3日間で行われたスペシャライズドのインフルエンサーやリテーラーなど関係者向けのイベント。ペテル・サガン(トタルエネルジー)が来日し、トークショーやライドイベントを行った。3日間の様子をサガンのインタビューとともにお届けしていこう。
イベント初日:トークショーパーティー
オーストラリアでの世界選手権が終わったばかりの9月28日、トタルエネルジーのぺテル・サガンが来日。スペシャライズドが主催するイベントにゲストとして参加した。このイベントには、日本だけでなくアジア各国のリテーラーやインフルエンサーなどが招かれた。
初日の夜には、渋谷のTRUNK HOTELにてパーティーが行われた。会場にはスペシャライズドが生み出した”争わない”超軽量バイク、エートスのフレームに6名のアーティストがペイントを施したものが展示された。
パーティーの途中には、展示された4作品を手掛けた現代アーティストの橋爪悠也さん、書道家の万美さん、BMXアーティストでNAO YOSHIDAさん、韓国のDONGJU/JESSEさんがそれぞれ登壇し、作品への思いなどを語った。
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登壇した4名のアーティスト
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書道家の万美さんは、黒のマットフレームにゴールドの絵の具で般若心経を書き連ねた。2日で完成したとのこと
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NAO YOSHIDAさんの作品は、BMXのホイールを使ってペイントされている
サガンのトークショーやサイン会なども行われ、大盛り上がりのパーティーの終わりには、アーティストとしても登壇したBMXライダーのNAO YOSHIDAさんがパフォーマンスを見せた。シルク・ドゥ・ソレイユでも活躍中のライディングは会場を大きく沸かせ、その日はお開きとなった。
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サガンのサイン会では、インフルエンサーの後輩ちゃんが「後輩ちゃんポーズ」で2ショット
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パーティーの終わりに披露されたNAO YOSHIDAのBMXショー
イベント2日目:富士スピードウェイでの走行体験
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参加者たちがサガンを囲う
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アジアのインフルエンサーたちが集まって記念写真
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韓国からは20人ほどが来日し、イベントを楽しんだ
2日目は朝から富士スピードウェイに集合し、コースを貸し切って自転車でのライドが行われた。各国のライダーたちもトラック2台分にバイクを載せ、ジャージ姿で集合。
ここにはゲストとして、プロレーシングドライバーのJ.P.オリヴェイラと元嶋佑弥も参加した。2人とも普段から自転車でのトレーニングを積極的に取り入れているそうだ。
それぞれが試走に出る中でサガンが登場し、スペシャライズドのeバイク、ヴァドに乗って参加者全員と1周。サガンがコースを降りた後、各国での簡単なレース走行も行われていた。
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運転席に座って元嶋から説明を受けるサガン
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助手席に乗り込むサガン
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サガンを乗せた時速300kmほどのレーシングカーが柵のギリギリを通過していく
自転車での走行が終わると、今度はサガンがレーシングドライバーの元嶋が運転するレーシングカーの助手席に乗って富士スピードウェイのコース走行を体験した。
過去にフェルナンド・アロンソの運転する車には乗ったことがあると話したサガンだが、ブレーキングポイントでのGを体験し、「レースカーの感覚を感じることができた」と興奮した様子だった。
その場の抽選で他参加者も数人がレーシングカーの助手席を体験したが、サガンのときとの違いについて元嶋は、「普通の人だと座っているのも大変な感じで、ブレーキングのときに頭が自分の視界に入るぐらいまで出てきちゃうんですけど、サガンは普通にロールバーを片手で押さえて、GoProを構えていてさすがだなと思いました」と話していた。
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Jスポーツの解説でも登場した元嶋はレースを見るのも好きだと話す。サガンについては、「本当にジェントルマンで、風格がすごい」と話していた
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ロードバイクでのトレーニングをはじめてから、車のレース中の心拍数アベレージも下がり、しんどいと思うことが少なくなったと話す。「4時間~5時間、高いところの心拍数で走っている中で余裕ができるので、レース中の冷静な判断につながったりとか、無線のときの声が全然他の人と違って息が切れてないなど、チームからも言われます」
また、機材や数値データなどが大好きだと話す元嶋は、自転車も大好きだと話す。レーシングカーでの走行練習はなく、レースやテストでの実走のみだそうで、専らトレーニングは自転車で行っているという。
中根英登(EFエデュケーション・イージーポスト)や草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)らとの交流もあり、トレーニングメニューについて相談もしているそうだ。
レーシングカーの中には相当数のセンサーが仕込まれており、各チームにセンサー解析のための人員がいないとレースが成り立たないという世界。
F1に乗りたいと思っても手に入れることができないが、自転車の場合にはお金を出せば買える。自転車の場合、整備から解析まで一人で完結できるからと好む人が多いそうだ。
その一人でもある元嶋も「トップ選手と同じものを乗れるわけなので、それがやっぱり楽しくて仕方なくて」と語っていた。
その一人でもある元嶋も「トップ選手と同じものを乗れるわけなので、それがやっぱり楽しくて仕方なくて」と語っていた。
イベント3日目:富士山麓でのライド
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エートスに乗ってあらわれたサガン
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小グループごとに分かれてサガンとのライドを楽しんだ
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朝は富士山に雲がかからない晴天の中で湖畔のサイクリングロードを走った
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参加者たちも貴重な機会を満喫していたようだった
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スペシャライズドのアンバサダーでタイのインフルエンサーであるMuzcaliもサガンと写真撮影
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アジア各国のライダーたちも晴天のなかのライドを楽しんでいたようだった
3日目は朝から富士山麓のライドが行われた。前日の夜には雨が地面を濡らしたが、翌朝にはすっかりと晴れ上がり、青空が広がっていた。
朝からサガンももちろん参加。サガンは、いつものターマックではなくエートスで登場した。
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エートスで走るサガン
およそ800人ほどの応募があったという募集の中で幸運を掴んだ一般参加者もこのライドに参加。全部で5グループに分かれた参加者たちが時間差でスタートし、それぞれサガンと走る時間を与えられることに。
まずは富士山ガーデンホテルをスタートし、山中湖沿いのサイクリングロードを走る。ライド序盤には、富士浅間神社に寄って祈祷も行った。
その後は山中湖や西湖などをまわりつつ、アップダウンのあるおよそ70kmのコースで参加者たちはライドを楽しんだ。
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浅間神社にて御祈祷
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全グループと走行後は、サガングループはスピードを上げて残りの距離を消化。コーナーでも、ちょっとした上りでも全くスピードが落ちることがなくスムーズに走行していく。ついていける参加者人数も絞られ、なかなか機会のないサガンとの高速域(おそらくサガンは流しているのみ)ライドを満喫していた。
ライドの終盤にはほうとう不動にて名物のほうとうランチ。サガンとのライドはそこまでとなった。
名物を食べ終えたらホテルへと戻り、大満足のイベントは解散となった。
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ライドを終えて去っていくサガン
コロナ禍に入ってからこういった大々的なイベントはほぼなかったが、今回、ほぼ関係者のみのクローズドなイベントながらサガンというスペシャルゲストを迎え、参加者たちは自然と笑顔になるような3日間を過ごした。
ペテル・サガン インタビュー
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9月25日に世界選手権ロードを7位で終えてから2日後の9月27日に来日したサガン。
サガンが注目している選手について、「特別なライダーはいつもたくさんいる」と話す。ブエルタ・ア・エスパーニャでの総合優勝だけでなく直近の世界選で衝撃の初優勝を飾ったレムコ・エヴェネプールももちろんその一人として例に挙げた。
「毎年特別なライダーが現れる。たとえば、世界選手権で優勝したレムコ・エヴェネプールは、まさに今年のライダーだね。若くしてブエルタを制したことも特別なこと。エガン・ベルナルは若くしてツール・ド・フランスを制覇した。(タデイ・)ポガチャルもそう。どの世代にも違うタイプのチャンピオンがいるものだよね」
世界選手権でのエヴェネプールの特別だった点についてはこう語る。
「彼にとってラッキーだったということもあるかな。ベルギーチームは、多くのカードで勝負することができた。チームメイトたちと一緒に、より長い距離を走ることも、短い距離を走ることも、最後の1周でスプリントをすることもできた。でも、何が起こるかわからないのが世界選手権のいいところ。レムコには、遠くから攻めることができるというアドバンテージがある。彼は大きなエンジンを持っているから、ハイテンポで長い時間走り続けることができるんだ。それは特別なことだと思う」
そんなたくさんのタレントがいるプロトンの中でサガン本人が思う強さについては、自身が持つマインドを挙げた。
「世界選手権で勝てるようになったとき、僕は”気に留めなかった”。だって、勝利を望み過ぎると失敗した時に大きな失望を味わうことになるから。キャリアの最初の数年間は世界選手権で勝ちたい気持ちが強く、ストレスを感じていた。でもそれをしなくなったら勝利が舞い込んできたんだ。“Why So Serious(そんなにマジになるなよ)?”のマインドだね」
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参加者のバイクにサインと”Why So Serious”という言葉を入れた
映画バッドマンシリーズの「ダークナイト」に登場したジョーカーのセリフの“Why So Serious?(映画では「そのしかめっ面はなんだ」と訳されている)”は、サガンの言葉にもよく出てくるいわゆるキャッチコピーのようなものだ。2015年~2017年、世界選王者として君臨し続けたサガンだが、そのときもそのマインドを持っていたと話す。
「出場して、それから何が起こるか見てみようという感じだったね。最初にリッチモンドで初めて世界選で勝ったときもそうだった。次の年のドーハの世界選も平坦でスプリンター向けのコースだったから、周りは2連覇について話していたけれど、僕自身は人生の中で1回は勝ったし、気に留めなかった。ドーハのとき、スプリンターのみんなは暑さに慣れるためにレースの2週間ほど前に来ていたけど、僕はレースの3日前に到着した。それでも僕は”Why So Serious”の精神で優勝したんだ」
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元世界チャンピオンの証が袖口に入る
そんなサガンだが、今後、4度目の世界選のタイトルそしてモニュメントの一つであるミラノ~サンレモを獲りたいとサガンは話す。そしてやはり世界選手権は特別だと話す。
「僕にとって世界選手権は、他のどのレースよりも価値があるもの。なぜなら、1日の結果次第で次のシーズンに特別なジャージを着られるから」
一方で世界最大のレース、ツール・ド・フランスでもポイント賞7回という実績も持つ。
「ツアー・オブ・カリフォルニアやツアー・ダウンアンダー、ブエルタ・ア・サンフアンなど楽しめるレースもある。ツール・ド・フランスなどの大きいレースになってくると焦点を合わせるため2~4か月の準備が必要になってくるんだ。ティレーノ~アドリアティコ、パリ~ニース、ツール・ド・スイスなどはツールの前に集中すべきレースに当たるかな。世界選やクラシックなどのワンデーレースは1日で全てが終わるからいいよね。ツールはメンタル的にもかなり削れる。ジロやブエルタもそうだけど、いろいろ含めたらツールが最もストレスフルといえるかな。あとは、ツールでは各選手のパフォーマンスがトップレベルであることを誰もが分かっているから回復する時間がないんだ」
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エートスとサガン
兄のユライ・サガンが今年での引退を表明したが、世界選4勝目、モニュメント獲得など、”プレッシャーのない”野望はまだまだ尽きない。若いうちと今現在との違いについてサガンはこう語る。
「レースが楽しいのは子供のときだけ。今は少し違う。 若いうちは期待も経験もないから学んでいる最中にある。誰も何かを期待していないからこそ、サイクリングを楽しみながらいろいろなことを学んでいくことができるんだ。
でも、何年か経てば責任も出てくる。何を持っているのか、人々に何を与えられるかなど、たくさんの期待を背負って、たくさんのことをしなければならないから、思いどおりにコンディションを整えるのが難しくなっている。また、若い頃はただ学ぶだけだった。今もまだ楽しさはあるけれど、一種の仕事として、あるいはやらなければならない使命のようなものとして考えているかな」
年齢による調整の難しさを感じ、新たに感じる痛みとの向き合うことにもなったそうだ。
「30代になると、コンディションを整えるのが本当に大変になってきた。痛みが強くなって、ケアするために今までよりもっと時間が必要になってくる。背中や脚にも痛みを感じるし、あるいは落車の後などには今まで経験したことのないような痛みに対処しなければならない」
オフロードなどを多く経験し、2010年にロードレースで花開いたサガンだが、自身が思う才能の部分はどれだけ大きいのだろうか。
「いつも言っていることなんだけど、いくつかは才能だろう。でも、誰でも努力次第である程度のところまでは到達することができるんだ。何もしないで何かがうまく行くわけではない。努力を続けることで、誰もがある地点に到達することができるんだ。そこまで簡単に辿り着く誰かもいれば、より多くの努力を必要とする誰かもいる。でも、誰でも等しくその地点に行くことは可能なんだ」
そこに簡単に辿り着くことができた一人だとサガンは続ける。
「僕はキャリアの中で勝利を積み重ねてきた。そこからさらに努力を積んできたからこそ、他の選手とは異なる存在になれたんだ。人はそれを才能と呼ぶかもしれない。でもベストを目指すには努力は必ず必要なんだ」
”努力なくして力なし”。決して才能だけでトップ選手になり得たわけでは決してない。サガンは努力の部分を強調した。
サガンのシーズンはまだ終わっていない。10月9日、イタリアで初開催されるグラベル世界選手権への出場を決めている。
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