猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第13回
目次
絶景の浄土平で坂バカ部試走名物“無駄アタック”をかまし出す部員達。
チャンス。
それは人生において、そうそう訪れるものではない。
だからこそチャンスが訪れた時……人は輝きを増す。
坂バカ部にとって、今年第2戦の磐梯吾妻スカイラインヒルクライムはまさに勝てるチャンスが訪れ、彼らは今までにない輝きを放ったのだ。
第3戦が乗鞍と考えると、この第2戦が優勝を狙える最後のチャンスだ。
それぞれがこのレースの重要性を感じて会場を訪れた……と思ったが。レース前日に集った坂バカ部は、いつものようによく喋り、その会話は全く噛み合っていない。
やっとこさ試走をする準備を整え出発しようとすると、階段王のバイクのタイヤがペコペコだ。サイクリストあるあるだが、出発しようとすると必ず足を引っ張る人がいる。
五郎監督自ら半ばキレ気味に空気を入れスタート!
猪野 学の課題
お尻の筋肉を使えない課題がある私は、スタートしてすぐに五郎監督にペダリングを見てもらう。
「踵が下がってるからダメだね!」
と早々にダメ出しをいただく。
この日のためにお尻だけを意識してトレーニングしてきたのに!と半ばいじけながら試走していると、部員達は下ネタに花が咲き始めた。坂バカ部名物下ネタ試走だ!私もお尻を忘れて下ネタに参加する。
下ネタを話しながら試走すると、なぜかコースプロフィールがすんなり入ってくるから不思議だ。下ネタにより脳が活性化するのだろうか。
下ネタ試走の後はグルメ
下ネタ試走を終えてホテル近くの蕎麦屋で夕食。
階段王は福島の蕎麦が気に入ったようで「旨い!あぁ旨い!ホントに旨い!」とずっと喋っている。体脂肪率6%を維持するために普段から節制しているのだろう。ちなみに階段王のレース前の食事は驚くほど少ない。レース前はあまり食べないそうだ。
暴風が坂バカ部に襲い掛かる
レース当日。坂バカ部は過酷な天候に見舞われる事が多いが、この日はズバリ「暴風」だ!
暴風にあらがうように第2戦がスタートした!コロナ禍で参加人数は少ないが、わざわざ参加する程の坂バカだからレベルは高い! つまり速い人しか来ていない!
私はお尻を意識してのペース走を心掛ける。始めのうちは良かったが、お尻を意識しトルクをかけようとし過ぎたのだろうか腰痛が出だした!そうなると右脚でしか踏めなくなる。もちろん踵は下がり始め、そのまま踏むペダリングとなってしまった。
レース中に五郎監督にペダリングを見て貰ったが「これはなかなか手強い!俺の範疇を越えている…」と深刻そうだ。
絶望的なペダリングでもパワーはそれほど悪くない。諦めずに踏んでいると景色が開け、絶景の浄土平が現れた!その瞬間横からものすごい暴風が襲ってきた。すかさずバイクを斜めに倒し、何とか凌ぐ。
戸丸はこの暴風の餌食となり4位と表彰台を逃した。そして階段王もまたギヤチェンジを怠り4位。1日目は仲良く表彰台のチャンスを逃した。
私は冷静にこの暴風が追い風になる所はないかと前方を見る。すると次のコーナーを曲がると追い風ではないか!コーナー出口から一気にギヤを上げてゴールまでロングスプリント!最後に2人ほど抜いてゴール! 順位は17位。
パワーも悪くないが、やはり腰痛とペダリングは深刻だ。ゴールして絶望に浸っていると、五郎監督が「腰痛が出るからペダリングが悪くなるのではなく、ペダリングが悪いから腰痛が出るんじゃない?」とまるで禅問答のような事を言ってきた。
踵が下がるのも「右脚でしか踏めなくなるから踵が下がる、左脚でもしっかり踏めれば踵は下がらず、結果として両脚を使えて腰痛も出ないのでは?」と。
私はこの言葉に少しの希望を見出した。
ペダリングほど人に教えるのが難しいものはない。ヒントは貰えるが感覚をつかむのは自分自身でしかないのだ。幸いこのレースは2デイズ!明日修正する事もできるのだ。
そして私は翌日……奇跡のペダリングをかますのであった。
磐梯吾妻2日目、奇跡の今年一番の走り編へと続く。