南アルプスで行われた ゛サイクルアドベンチャー゛に参加してみた
目次
南アルプスの秘境を目指す新イベントの実証実験
10月16日(日)に、南アルプススーパー林道(県営林道南アルプス線)を封鎖し、自転車と複合的なアクティビティを楽しむ「サイクルアドベンチャー・フェス in 南アルプス」が開催された。
通常、産業用車両や路線バスのみ通行できる区間を、この日に限りサイクリストに向けて開放。グラベルバイクやMTB、eバイクのサイクリストで賑わった。さらに往路の折り返し地点である広河原(ひろがわら)では、地元グルメやサウナ、森林ヨガ、ヒーリングトレッキングなどのアクティビティが実施された。
今までに無かった複合的なライドイベントの様子を、筆者の実走取材のもとレポートする。
当日は金山沢温泉のそばにある芦安観光駐車場がスタート・ゴール地点となり、全国から自転車関係者やメディアなど、100人ほどが集まった。この日のコーススペックはおおよそ、往復40km、獲得標高900m。普段は立ち入れない道ということもあり、路面状況は舗装路なのかダートが続くのか、未知数な部分も多かった。
開会式では県知事の長崎幸太郎知事と南アルプス市長の金丸一元市長両名の挨拶があった。お二方ともに本大会への期待度は高く、「ぜひ南アルプス、山梨の魅力を味わっていただきたい」とのことだ。
また本大会で心強いのがやまなしサイクルツアーガイドの存在だ。山梨県のサイクルツーリズムの担い手として、座学と実技の講座を修了した15人がこの日の水先案内人を務めた。
グループごとに分かれ、7時半にいざ出発。数日は天候が不安定なこともあり、当日の天気も心配されたが、幸運なことに朝から快晴が広がっていた。これから20kmの林道ライドが始まる!
坂あり、真っ暗トンネルあり、絶景ありのアドベンチャー!
意気揚々とこぎだしも順調……と言いたいところだったが、その希望は会場を出てすぐに絶たれる。スタート直後の100mほどは10%を越える激坂が続き、多くのサイクリストの心拍を急上昇させた。その中でも爽やかな表情を浮かべて、「お先に〜」と、にこやかに過ぎ去っていくのがeバイクでの参加者だ。
本大会は非常にeバイク率が高いのも特徴で、当日も半数ほどはeバイクでの参加だったという。これも本大会の狙いのひとつ。
本大会を主催したやまなしスポーツエンジン事務局の渡辺一秀さんは、「既存のサイクリストのみならず、より裾野を広げて楽しんでいただきたく、eバイクにも力を入れました」と、教えてくれた。
激坂を乗り越え、緩やかな登坂が続く。基本的に往路はほぼ上りということだ。まずはこのコースの大きな経由地でもある夜叉神トンネルを目指してヒルクライムを続ける。
今回舞台となった南アルプススーパー林道(山梨県営南アルプス林道)の夜叉神〜広河原区間は通常、林業用の産業道路として活用されている。また南アルプスの山々を目指す登山者を運ぶ路線バスが行き交うのみで、季節に関わらず一般車両の通行は不可能だ。
歴史を辿れば、20年前はこの道も通行可能だったそうだ。だが、規制がかかって以来サイクリストも立ち入れない道となってしまった。そのため地元のサイクリストにとっては、「待っていました!」と言わんばかりのイベントだったのではないだろうか。
さらに、ライドを続けるうちに大会名にもある「アドベンチャー」の意味も明らかになっていった。普段は大型車両が行き交うため、路面状況は舗装路であっても荒れている部分が多い。さらには夜叉神の超ロングなトンネル。中には水没区間もあり、サイクリストたちの変態的な歓声でトンネル内は大盛り上がりした。
このようなアドベンチャーを笑顔で走り切れたのも、林道完全封鎖という心強さからだろう。
確かにこの道が普段から走れる道なのであれば……と、悔しくさえ感じた。
そして(ほぼ)上りっぱなしの往路も幕を閉じる。ヒルクライムイベントさながらのコースは健脚サイクリストには十分な走りごたえを、eバイクユーザーにはアシストの醍醐味をたっぷりと感じさせた。
絶景を楽しみながら、ひたすら秘境でヒルクラに興じる、ざっくりといえばこのようなイメージだ。
速度を気にせずにグラベルバイクやMTBで悪路を堪能するもよし、eバイクで心地良い汗を流すもよし。参加者のライドスタイルに寄り添う雰囲気も心地良く感じた。
山梨グルメを食べ尽くすエイド
カラフルなオーナメントに横ノリ系のミュージック、そしてじゅうじゅうと肉が焼ける音。広河原で待っていたのは、フェスさながらの会場だった。
ここでは小休憩を挟みながら、南アルプスのグルメをたっぷり味わう。それにしても、肉や魚、スープ、カレー、スイーツと食べきれないほどのエイド食が参加者を待ち構えていた。何を食べようかあれこれ迷い、最終的には全種類を食べ尽くそうと頬張るサイクリストの姿も。
サウナ、ヨガ、トレッキング、どのチルがお好き?
食を楽しんだあとは、アウトドアアクティビティが始まる。サウナ、ヨガ、トレッキングの3種類が用意されており、参加者は事前に参加希望のプログラムを選んでいた。
河原から「うおーっ」と雄叫びが聞こえてくるのが印象的だった。サウナ参加者は河原に設置されたサウナテントで温まったあと、すぐそばに設置された水風呂で温冷浴を堪能していた。
山々に囲まれた渓谷での開放的なサウナで、完全無欠の”ととのい”を感じられたのではないだろうか。
一方、森林エリアでは穏やかな時間が流れていた。参加者は講師に呼吸法やポーズを教えてもらいながら、森の息吹を感じるヨガに挑戦。30分程度のプログラムを終えた体験者の顔には、どことなくスッキリしたような爽やかな表情が浮かんでいた。
往路のライドがアッパーなものだっただけに、アクティビティのチルな雰囲気にすっかり虜になってしまった。サウナ、ヨガ、トレッキング、どれも内容は異なるものの、辿り着いた先は共通した心地良さだった。
参加者は「何だか気持ち良くなっちゃった」や「リラックスしすぎて眠くなってきた」と口にしながら、再度自転車に跨がった。復路は下りがメインとなる。気持ちを切り替えて、安全にゴール地点を目指して走りだした。
「まさにアドベンチャー!」参加者も大絶賛
100人あまりの参加者は全員ケガもなく復路を完走し、初めての試みとなる「サイクルアドベンチャー・フェス in南アルプス」は無事幕を下ろした。
経験豊富なサイクリストや峠、林道ファンのみならず、初心者にも体験してもらいたいとレンタルeバイクに力を入れた結果、実に幅広いレベルのサイクリストが集結したのも特徴的だった。
初心者から経験者まで揃ったグループに話を聞いたところ、「良い汗を流せました」という。eバイクも南アルプスの林道も初めてだったという人は「キツすぎず、景色も十分に楽しめました!」と笑顔を浮かべた。
さらに、著名な自転車インフルエンサーの顔ぶれも揃った。
自転車系Youtuberけんたさんは、「めっちゃよかった。景色最高! 20kmくらいでヒルクライムも良いペースで楽しめるのでいいですね。しょっちゅう足を止めて写真撮っちゃいました(笑)」と林道のポテンシャルを絶賛した。
やまなしサイクルプロジェクトにも所属している妖怪ツケマツゲさん。普段から県内でライドをしている妖怪ツケマツゲさんも、今日の催しを心待ちにしていたという。
「夜叉神峠のゲートの手前までは走ったことはあったんですけど、今日は初めてその先を走ることができました。山梨県民としてもびっくり! 想像以上の絶景で感動しました」と、興奮気味に教えてくれた。
トライクルの田淵君幸さん。「このコースは結構キツイっすね。でも林道を完全封鎖しているということもあり、みんなでワイワイ走れるので楽しかったです。左手には絶景が広がっていたり、時々素掘りのトンネルがあったり、滝があったりと『アドベンチャー』と書かれている通りの体験ができました!」
最後にサイクルアドベンチャー・フェス in南アルプスを企画したやまなしスポーツエンジン事務局の加賀美 啓さんにお話を伺った。
「子どもの頃に初めてこの道に来たとき、『ここを自転車で走れたらどれだけ気持ち良いのだろう』と思ったんです。長年の思いを実現できて嬉しいです。一番の課題は路面状況をどれだけ保証できるかという部分でした。林業用の産業道路なのでハードルは高かったのですが、あえてグラベルライドとして企画を進めました」
そして、今後は一般のサイクリストを募集してツアー化できたらと話す渡辺さん。
「今回は実証実験という形でしたので、規模感やオペレーションを改めて確認し、より良い大会運営に繋げていきたいと思います」(加賀美さん)
南アルプスの林道を舞台に自転車とアクティビティを組み合わせた本イベント。既存のサイクルイベントとは一線を画した新たなイベントの芽生えを感じる。
筆者は夜叉神トンネルを抜けた先に広がっていた、紅葉に染まりつつある山深い景色が忘れられない。このイベントが定番化し、あの林道に再訪できる日を今から心待ちにしている。
CYCLE ADVENTURE Fest. in Minami-Alps (サイクルアドベンチャー・フェス in南アルプス)
開催日時:2022年10月16日(日)7:15〜
開催場所:山梨県南アルプス市芦安コース:南アルプス市営芦安第2駐車場〜夜叉神駐車場〜広河原
距離:約20km/片道(約40km/往復)
獲得標高:約900m(往路)
主催:やまなしスポーツエンジン、山梨県
共催:南アルプス市
企画・運営:(株)アミューズ、(株)ルーツ・スポーツ・ジャパン
協賛:(株)ドコモビジネスソリューションズ
協力:(一社)南アルプス市観光協会