今年もジャパンカップには多くの海外チームが参戦し、ハイレベルなレースが展開された。来日したチームのなかに、ロードレースファンならぜひ知っておきたいプロコンチネンタルチームがある。それがデルコ・マルセイユプロヴァンスだ。
石上優大(AVCエクサンプロヴァンス/エカーズ)と岡篤志(宇都宮ブリッツェン)の加入を発表したフランスのUCIプロコンチネンタルチームであり、周知の通り、現時点では来シーズンの協力体制へ向けてNIPPOと協議中。さらに複数の日本人選手や日本人スタッフを受け入れる予定だ。
2019年限りで解散するNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネに代わり、来季から日本人選手のヨーロッパ挑戦の場となるデルコ・マルセイユプロヴァンスとは、果たしてどんなチームなのだろうか。ジャパンカップの機会に来日したゼネラルマネージャー、フレデリック・ロスタン氏に話を聞いた。
デルコ・マルセイユ・プロヴァンスを率いる、フレデリック・ロスタン氏
デルコ・マルセイユプロヴァンスとは、どんなチームなのでしょうか?
「チームのルーツは、アマチュア自転車クラブ、ラ・ポム・マルセイユ。1974年に創設され、私自身は1996年から代表を務めている。2016年にはフランスのプロヴァンス地方自治体によるプロジェクトの一環として、プロコンチネンタルカテゴリーへ昇格した。
そもそものラ・ポム自体は若い選手のための『育成』チームであり、数多くのプロ選手を送り出してきた。フランス人だけではなく、ニコラ・ロッシュ、ダン・マーティン、ダリル・インピー……もちろんフミ(別府史之)といった外国選手もたくさんね!」
トレック・セガフレードで走る別府史之もデルコ・マルセイユプロヴァンスのOBだ
スポンサーのデルコ、そしてプロヴァンス自治体とは?
「デルコとは南フランスに本拠地を置く自動車整備ガレージチェーンで、現在はフランス全土に120の支店を有している。スポンサーの目的は、自転車競技を通して会社の知名度を上げること。来季は(フランスでの)レースTV中継前後のCM枠を購入し、意欲的に自転車界へと投資を続けている。
プロヴァンス自治体のスポンサーは、まさしくチームの『基盤』。我々は地域密着型チームであり……言ってみれば宇都宮ブリッツェンのようなものかな。マルセイユ市、その上のブーシュデュローヌ県、さらにメトロポール(自治体間協力公施設法人)であるエクサンプロヴァンス市……等々が力を合わせて、プロヴァンス地方の魅力を世の中に広めたいと考えている。2019年7月には『ワン・プロヴァンス』という新たな統一名称も作られた。来季はマルセイユプロヴァンスに代って、ワン・プロヴァンスのブランド名がチーム名に組み込まれる」
地域密着型チームとおっしゃいましたが、外国スポンサーとの協力体制は矛盾しないのでしょうか?
「実はワン・プロヴァンスが求めるもの、それこそが『国際色豊かなチーム』なんだ。複数の国籍でチームを構成し、地球規模で中継される大きな自転車レースに参戦すること。フランス国内だけでなく、世界中の注目を引くこと。これが我らの使命なんだよ。というのもワン・プロヴァンスとは、外国の人たちにプロヴァンス地方の存在を知らしめ、観光客やビジネスをプロヴァンス地方に呼び寄せるためのマーケティングブランドだ。つまり日本に向けてプロヴァンス地方がアピールできる今回のコラボレーションは、ワン・プロヴァンス側に取って100%ポジティヴなんだ。
それに外国人選手を積極的に受け入れるのは、ラ・ポム・マルセイユのそもそもの基本方針でもあった。僕自身の選択でもある。2000年の段階ですでに、チームの半分は外国人選手だった。若い選手にとっては……フランス人選手にとっても、異文化との交流や融合とは、精神の成長を手助けしてくれるもの。たとえ最初は意思疎通に苦労したとしても、そのおかげで相手をより深く理解するために工夫し、他者を受け入れる精神的な余裕が育まれるのだ」
そうは言っても外国スポンサーとのコラボレーションは初めてですね。
日本との協力体制に不安やためらいはありませんでしたか?
「日本とは2001年から繋がりがあるんだよ。2001年に初めて浅田顕と出会った時から、日本との関係は始まっていたんだ。田代恭崇をラ・ポムに受け入れ、さらには別府史之や相川将……。ラ・ポムではないけれど、現在ブリッツェンで監督を務める清水裕輔も、うちの下部チームで走っている。たくさんの若い日本人選手がこの地方にやってきて、成長を遂げてきた。4~5年前には福島晋一も、我々のチームで監督研修を行ったしね。大門監督のことも2005年くらいからよく知っている。
つまり日本と我々チームとの関係は、昨日今日に始まったものではない。長い間をかけて関係を紡ぎあげ、『信頼』が育まれた。そして1年半前に、大門との対話が始まった」
NIPPO・ヴィーニファンティーニファイザネ、大門監督
日本人選手の加入が続々と発表されていますが、加入選手はどのように決定したのですか?
「日本とのプロジェクトが立ち上がったからには、日本で最高の選手を揃えたいと考えた。若い選手はもちろん、経験豊かな日本人選手も欲しかった。強い日本人選手を我々のチームに加入させ、いわゆる小さな『日本代表』を我がチーム内で作り上げたいんだ。
例えば石上に関しては、AVCエクサンプロヴァンスのチームで走っている事実が、決定を大きく後押ししてくれたね。AVCエクサンプロヴァンスは、我々のチームが協力関係にある4つの育成クラブの1つであり、所属選手たちの動向はシーズンを通して注目している。スペインのプルエバ・ビリャフランカという極めてハイレベルなレースで7位と好成績を出したことに加えて、石上がエクスで成長を続けてきたという事実は、彼がヨーロッパでの生活やレースにすでに適応しているという『保証』でもある。
来期チームへの加入が決まっている石上優大
もちろん日本のスポンサーが参入するから、日本人獲得に積極的に動いた。プロスポーツというのはなんであれ、スポーツ面での成績はもちろん、スポンサーとの関連が非常に重要になってくる。どのスポーツも、どの国も、この例を逃れることはできない。
それに『タイミング』も重要だ。このタイミングをモノにした最高の例がフミだよ。フミがラ・ポムで走っていた時代は、日本人がプロの自転車選手になることは、今以上に難しかった。フミと同じくらい強い、もしくはフミよりも弱いヨーロッパの選手がどんどんプロ入りを決めていく中で、フミにはなかなか声がかからなかった。『日本人プロ』の前例がない時代だったからだ。でもディスカバリーチャンネルがグローバル戦略の一環として、日本人選手を獲得しようと考え……まさにそのタイミングでフミは素晴らしい成績を連発し、プロになる価値のある選手であると証明した。こうしてプロ入りの切符を勝ち取った後も、自己の実力を証明し続けているよね。だからこそ10年以上たった今でも、プロとして走っている。
日本の若い選手たちも、『日本のスポンサー』という大きなチャンスを、この最高のタイミングを、ボーナスとしてしっかりとその手につかみ取るべきなんだ」。
フランス籍のプロコンチネンタルチームとして、2019年はパリ~ニースやパリ~ルーベを始めとするビッグイベントを転戦したデルコ・マルセイユプロヴァンス。来季2020年は1月末にアフリカのガボンで開催されるラ・トロピカル・アミッサボンゴ、チームのお膝元マルセイユで2月上旬に開催されるGPラ・マルセイエーズを皮切りに、さらに地球規模で活動範囲を広げていく。もちろん日本人の加入で、日本のレースでも存在感を見せてくれるだろう。デルコ・マルセイユプロヴァンスと所属日本人選手たちの、来シーズンの活躍が楽しみだ。