本誌連載・橋本英也『3足のわらじ』特別インタビュー
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サイクルスポーツ本誌に『3足のわらじ』を連載する橋本英也。その連載のカラー化を祝しインタビューを企画。と思ったらインタビュー直後のUCIトラック・ネイションズカップ第1戦エリミネーションでは日本人として初の優勝をキメた! そのUCIのライブ配信で「いつも笑顔」と紹介された世界の笑顔、橋本英也。毎月の連載と一緒に読むとより楽しい、その笑顔の深いところに迫る。
自転車哲学「3足のわらじ」が読めるのはサイスポだけ!
本誌『サイクルスポーツ』で5年に渡り続く好評連載、橋本英也の『3足のわらじ』。トラックレース、ロードレース、そして競輪の選手として、2足ならぬ3足のわらじを履く自転車選手だ。東京2020オリンピック・男子オムニアムに日本代表選手として出場したオリンピアンでもある。
橋本の軽いフットワークと深い思想が生み出す毎月の連載は、特に毎回後半に書かれる哲学思想が人気だ。自転車選手の枠を超え、しかし日本を代表する自転車選手というスタンスで世界を見つめ切り取る橋本英也ワールド。万が一読み落としているならば、本誌バックナンバー、オンライン・デジタル版、各地図書館などキャッチアップする方法はいくつかある。
その人気連載が、先の本誌リニューアルと共にカラー化。より色鮮やかさを増したその文章を祝して企画したこのインタビューだったが、そこにさらにうれしいニュースが加わった。UCIトラックネイションズカップ第1戦ジャカルタ大会、エリミネーション種目での優勝だ。
【動画】Day One Highlights | Jakarta (IDN) – 2023 Tissot UCI Track Nations Cup
ハイライト、エリミネーション 18:43~
トラックでは世界選手権に次ぐレベルのネイションズカップ、得意のエリミネーションを野生的な感で勝利した橋本は、「Always smiling, always strong!(いつも笑顔で、いつも強い)」とアナウンサーに紹介された世界の笑顔。東京オリンピックに続きパリオリンピックへの出場を目指す彼の、連載では読めないその人間像にズームイン。
なお、このインタビューはそのネイションズカップ第1戦の直前に行われている。そして3月14日~17日に行われるネイションズカップ第2戦にも出場予定だ。オリンピック連続出場、そしてメダル獲得を目指して弾けてほしい!
■橋本英也(はしもと・えいや)
・チームブリヂストンサイクリング所属
・113期 競輪選手、A級2班
・東京2020オリンピック男子オムニアム17位
1993年12月15日生。競輪選手、チームブリヂストンサイクリング選手、トラック競技のナショナルチーム選手という「三足のわらじ」を履いて活躍中の東京2020オリンピック男子オムニアム・オリンピアン。2023 UCIネイションズカップ#1、エリミネーション優勝!
サイクルスポーツ本誌連載の『3足のわらじ』は大好評!
東京五輪を振り返って
ーー東京オリンピックはどうだった? なにを学んだ?
少し前までは、敗者として終わったという良くない感覚でした。メダル争いに絡みたかったけど、フィジカル面が足りず、絡めなかったからです。でも最近は、オリンピックに派遣してもらえた事実を、良い経験ができたと思っています。だからこそ、次回のパリではもっと良い結果を出したいです。
オリンピックという最高峰のレースに出られたということは、次回のパリまでに出場するレースは相対的に言えば格下になります。レースの位置付けを俯瞰して見られるようになったのは、学びの一つでしょう。あの1日は1分1秒を大切にしながら、命を賭けた、燃やしたという感覚があり、人生で忘れられない1日になりました。
ーーオリンピックのあと、目標を見失わなかった?
最大のレースを走ったあと、次に同じ規模のレースを走るとしたら、それはまたオリンピック、つまりは3年後のパリになります。目標はどんどん高くなるものだと考えていて、例えばタイムは伸ばそうとしますけど、落とそうとはしないですよね。だからオリンピックを軸に考えると3年後となってしまうため、結果的に目標は見失ってしました。
東京オリンピックが終わってからは、資本主義の中で生きる気持ちが落ちた気がします。それまでずっと勝敗だけを考えながら過ごしてきたからです。オリンピック後は、安定したそれなりの暮らしに甘んじればいいかなとも思っていましたが、それだと結局、目標がないこととイコールになるため、楽しくありませんでした。
目標が叶う叶わないは別として、それに向かって生きれば、人生を楽しめると思います。パリに向けてのポイント争いは今年から始まるため、目標をしっかりと決めて進もうという気持ちになり、自転車に乗るのがやっぱり楽しいです。速く走るために努力するのが楽しいと思えます。
パリ五輪に向けた気持ち
ーー2023年シーズンのレーススケジュールは?
今シーズンはオリンピックの選考レースを中心に始まっていきます。中でも重要なのがネーションズカップ1、2戦、アジア選手権、世界選手権です。
ーー次のパリオリンピックにはどんなイメージで臨む?
東京オリンピックでは男子は僕しか出場できなかったので、チームパシュートとして5人の出場枠を取りたいです。前回の東京2020より枠が2カ国増えて、松田祥位選手の加入もあってメンバーの質が高まっていて、練習のタイムも一周13秒台という良いペースで走れています。チームパシュートの枠が取れれば、東京オリンピック前にあった、椅子取りゲームのような1枠争いがなくなります。パリに向けて多くの枠を取るのが一番重要です。
ーー4kmチームパシュートでの目標タイムは?
今年は3分48秒を狙っています。次の段階は3分45秒です。練習では完全に測っていないのですが、まだ40秒台は出ていません。特に冬は寒さで空気が重くてタイムが出にくいのですが、練習では1周13秒台を出せています(注:4km=250mトラック×16周)。ネイションズカップ第1戦のジャカルタは暖かいので、タイムをどこまで伸ばせるかが課題です。少なくとも日本記録(3分52秒956)は更新したいです。
(23/2/24 ネイションズカップ第1戦、男子チームパシュートは予選5位3分53秒961で、決勝1回戦はチームメンバーの登録ミスでDNS、最終結果は8位となった)
ーー今年の目標にするのはオムニアム?
チームパシュートが第一目標で、オムニアムとマディソンもあります。
ーーライダーとして、チームパシュートの魅力とは?
4人でお互いの長所を活かして、0.1秒でも速く走ろうとするところでしょうか。
ーー今の出走順は?
5人のチームで、僕はおそらく3か4番手になりそうです。1番手は松田選手でしょう。2~4番手は予選や決勝で、兒島(直樹)選手、今村(駿介)選手、窪木(一茂)選手、僕の中で調整する形です。
僕が去年に1番手を走っていたのは、有酸素の能力が足りなかったためで、消去法でそうなりました。ただ適正で言えば2~4番手であり、今のメンバーの中では僕が一番踏めていると思います。個人種目でならガンバれば枠を取れるでしょう。でも今村選手、窪木選手、兒島選手の日々のガンバりを知っているので、彼らと椅子取りゲームをするのではなく、皆で最大枠を取るのを望んでいます。もし取れなければ、自分だけでも枠を取りに行きます。
競輪選手として
ーー競輪を走るスケジュールはどう決まる?
コーチが決めています。レース後やリカバリーウィークのときに競輪に出ることが多いです。2月は出ませんが、3月に出ます。
ーーレースと競輪の両立は難しい?
競輪と走るだけなら両立は簡単ですが、競輪に1回出ると4日間拘束され、長距離の有酸素トレーニングができず、心肺機能が落ちてしまうため難しくなります。2回出ると8日間になり、移動日も含めると10日になってしまいます。スマートローラーで負荷をかける分にはいいですが、負荷のかからないローラー台しかありません。ランニングもしていますが、限界はあります。
ーートラックレースと競輪の違いは?
自転車に乗る時間が少ないくらいで、あとはほとんど同じです。ロードとトラックの踏み方、クランク長、ポジションも同じです。
ーー競輪選手になろうと思ったきっかけは?
選考落ちしたリオ2016オリンピックです。走って結果を出すのが選手だけど、選ぶのは選手じゃないと知りました。ロードレースでも選ぶのはチームのコーチです。競輪は、結果さえ出せばコーチによる選出はなく、次のステップに行ける成果主義で、そのシステムに惹かれました。もう一つの人生があるとして、リオ五輪に出られていれば、別府選手や新城選手のように、海外チームで走っていたかもしれません。
ーー競輪選手になって感心したことは?
競輪のカルチャーです。自転車そのものもそうですし、前検日、先行、まくりといった競輪用語を使うところも異なります。競輪というコミュニティーが自分の中で新たに増えました。
ーーいろんな立ち位置がある事実を、他の競輪選手はどう見られている?
興味を持っていろいろと聞いてもらえるので嬉しいです。短距離(トラック短距離競技)で結果を出した選手であればもっと興味を持たれると思いますが、僕は中距離なのである意味特殊です。普段関わらない人たちや、いろいろな年代の選手とも話すことができますね。
ーー競輪はロードレースに役立っている?
ゴールスプリントでのタックルに(笑)。それは冗談として、ロードのスプリントには競輪のスプリントほどの爆発力はなく、余裕を持って対処できるので、役立っているんでしょう。
ーー自分で主催するならどんなレースにしたい?
競輪のエリミネーションです。競輪選手でいられる間に実現したいです。エリミネーションだったらワンチャンがあります。位置取り選手権でいける人もいるし、ギャンブル性もあって、見ても面白いですよね。選手としての目標は競輪グランプリに出ることです。
自転車に関する好きなこと
ーーロードレースの中で目標としている選手は?
ブラッドリー・ウィギンス(イギリス)が好きです。
ーーどんなレースが一番好き? 出てみたいレースは?
観客が多いレースが好きです。競輪グランプリとツール・ド・フランスに出てみたいですね。
ーー今後はさまざまな展開がある中、どんなビジョンを持っている?
自転車で速く走るというより、生涯スポーツになるようにしたい、自分がレースを走る姿を多くの人に見せてサイクリストを増やしたいです。そしてレースを見る人も。
ーーそもそも、なぜ自転車が好き?
まず、自分で操作できる乗り物が好きです。そして、さまざまある乗り物の中で、軽いものが好きだな、と。そうなると、自転車しかありません。
ロードは特に軽くて、自分で動かしている感が得られるので、これだけハマったんだと思います。スポーツとしても楽しめますし、移動そのものがスポーツになる点も魅力です。僕は水泳をやっていましたが、他のスポーツではフィールドありきですから。
合宿先でトレーニングをするのも好きですけど、オフ日にローカルスポットに行くのも好きです。パーツなどの機材面も好きで、とにかく自分の「好き」が詰まったものが自転車なんです。いつか選手を引退しても、乗り続けていると思います。
ーー連載『3足のわらじ』を楽しみにしている読者に一言。
毎月見ていただき、ありがとうございます。読者のみなさんと意見を交換したいです。
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日本のオリンピック出場枠、そしてその先にあるメダルを目指すエイちゃんこと橋本英也。今後の目覚ましい活躍とサイクルスポーツ本誌連載の面白さに期待したい。
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