ロードバイクの良いペダリングとその獲得方法〜基礎知識編
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ロードバイクに乗っている人なら、誰でもペダリングを上達させてより速く楽に走れるようになりたいと思っているはず。そこで、日本のペダリング研究の第一人者・ハムスタースピン代表の福田昌弘コーチをアドバイザーに迎え、ロードバイクの良いペダリングとその獲得方法に迫る。まず今回は基礎知識編だ(→練習方編はこちら)。
ペダリングを動画で見たい人はこちら(記事はすぐ下に)
ポイントはシンプルに3つ
ペダルを踏んでクランクを回すという、単純だが複雑で難しいこの動作。そもそも”良いペダリング”とはどんなものなのか。まずはその根本の疑問を福田コーチにぶつけてみた。
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日本で唯一と言えるペダリング研究家にして自転車コーチの福田昌弘さん。オンラインでのコーチングをベースに、各地で公演や指導活動も行う「ハムスタースピン」を主催する。http://hamsterspin.com
「さまざまな要素がありますが、大きく考えて次の3つのポイントがあります。
1つ目は、”クランクを回した分だけホイールが回り、それが推進力に変わること”。
2つ目は、”重力と戦わない動き”。
3つ目は、”パワーとは何かを考えること”。この3つです」と福田コーチ。
こう聞くと要素はシンプルなように聞こえるが、どういうことなのか。1つずつ教えてもらおう。
“クランクを回した分だけホイールが回り、それが推進力に変わること”
まずはこのポイントについて教えてもらおう。
「自転車は、クランクを回してチェーンでリヤホイールのスプロケットを引っ張り、スプロケットがフリーボディにかむことによってホイールが回り、前に進みます。なので、クランクを回してもチェーンでホイールを引っ張る動きになっていなければ、それは推進力になっていないこととなります。
ポイントは、チェーンに張りが感じられる状態になっていることです。水泳の自由形の泳ぎをするとき、水を手でかいて捉える動きを”キャッチ”といいますが、まさにそれと同じで、”チェーンをキャッチする”動きと言えますね」。
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チェーンに張りが感じられていると、スプロケットがきちんと引っ張られてフリーボディにかみ、クランクを回した分だけホイールが回って推進力になる
では、クランクを回してもチェーンに張りが感じられず、ホイールを回す動きにつながっていないとき、見た目にチェーンはどんな動きをしているのか? また、それはどんな状態なのだろうか?
「クランクを回しても、スコッと抜けるような瞬間を感じることがありますよね。まさにそのとき、クランクを回しているのにホイールを回す動きになっていません。スプロケットがフリーボディをかんでいないのです。
こういう状態が出ていると、チェーンが見た目にバタバタと上下に揺れるようになります。また、スプロケットがカチャカチャと鳴る音がします。
こうなると、”頑張って脚を動かしてクランクを回しているのに、ホイールが回っていない状態”になりがちです。ペダリングのトルクにムラがあるとこうなりやすいですね」。
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チェーンに張りが感じられず、クランクを回してもホイールを回すことにつながっていない動き
「ですから、できるだけ脚をスムーズに動かして、チェーンがバタバタと上下に揺れず、常に張りが感じられる状態になるようにしましょう」。
なるほど。シンプルだが、たしかに言われてみればそのとおりだ。
“重力と戦わない動き”
続いて、このポイントについては?
「人間は常に重力に引っ張られています。ですから、それに逆らわない自然な動きをすることが大切です。
具体的には、なるべくペダルが高い位置、特に0時の位置から3時の位置でしっかりと踏むようにすることが大切です」。
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時計の針でいう0時から3時の位置まで、ペダルをしっかりと踏めるようにすることが大切だ
ペダルが高い位置から踏めないと、良くないのだろうか。
「ペダルが高い位置から踏めないと、例えば4時〜6時くらいで踏むことになります。すると、反対側の脚で頑張って引き上げるような動作になりがちなんです。
特に0時〜3時の高いところできちんとペダルを踏めれば、高いところから下に踏む重力と戦わない動きになり、楽にクランクを回せるペダリングになります。
逆に、低いところでペダルを踏んでもクランクは回りにくいし、反対の脚で引き上げる動きが出ても重力と戦うこととなって自然な動きではなくなり、楽に効率良くペダルを回すことができなくなりがちです」。
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高い位置からペダルを踏めないとクランクは楽に回せないし、反対側の脚で引き上げるような動作になってしまいがちで、不自然で効率の良くない動きとなる
引き脚は必要ない!?
よく引き脚をしろ、と言われることがあるが、それについてはどう考えたらいいのだろうか?
「よく言われる引き脚とは、5時〜7時のあたりを通過するときに、後ろに引くような動きをしろ、というように言われることが多いと思います。
このとき、反対側の脚は0時過ぎくらいになっているんですが、結局のところ、きちんと反対側の脚で高い位置から踏めていれば、引き脚をしなくても勝手に脚は5時〜7時を通過して、さらにそこから上がっていきます。逆に、0時の高い位置から踏めていないから、引き脚の動作をしなければいけないことになります」。
ということは、引き脚は意識しない方がいいということだろうか?
「そうですね。無理に引き脚を意識するよりは、より高い位置からきちんと脚を伸ばせるようにすることを意識するべきだと思います」。
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反対側の脚で高いところからきちんと踏むようにすれば、引き脚を無理にする必要はない
“パワーとは何かを考えること”
最後に、少しお勉強タイムとなるが、重要なポイントについてだ。
「最近、パワーメーターがかなり普及してきました。レースに出なくても装着している人も結構いらっしゃいますよね。そこで、今回のテーマに関連して考えてほしいのが、”パワーとは何か”ということです。
ここでクイズです。①全力で鉄柱を押す(びくともしない)、②地面に転がっているボトルを押す(簡単に動いて移動する)。どちらの方がパワー(W)は高いでしょうか?」
全身の力を込めて押す①の方がパワーが高いように思われるが……?
「答えは②です。
パワー(W)=力(トルク)×速度
なんです。
つまり、どれだけ大きな力を鉄柱に加えても、動かない(速度がゼロ)なら、掛け算してゼロですよね。つまり、①は0Wなんです。
一方②は押す力は小さいですが、移動している(速度がある)ので、掛け算して0にはなりません。ですから、こちらの方が高いパワーが出ています」。
何と! 理系に明るい人なら「当たり前だろ」と思うかもしれないが、これは分からない人が多いのではないだろうか。ということは、パワーメーターもこれと同じ計算をしている?
「そうです。クランクに加わった力(トルク)と、クランクがどのくらいの速度で回っているか(回転数=rpm)を掛け合わせて計算しています。
ペダリングパワー(W)=力(トルク)×速度(回転数/rpm)
です。
自転車の場合、ペダリングパワーを高くしようとするなら、一つはケイデンスを高くするという方法があります。ただし、自転車は回転が高くなると機械抵抗が増えてしまうという性質があります。ですので、一般的には100rpm(1分間に100回転)がギリギリ上限だと思います。
で、今回言いたいのは、一般的にロードバイクで走るなら、できるだけ大きな力でクランクを回し大きなパワーを出せるようにすることが大事だ、ということです。
ヒルクライムやTTなど、短時間で終わるようなシチュエーションなら高いケイデンスを維持することも必要となりますが、ロードレースで長時間走るときや日常のライドでは、低めのケイデンスでも大きなパワーを出せるようにすることが大切です。これはぜひ頭に入れておいてほしいことですね」。
いかがだっただろうか。シンプルだが非常に深い内容だ。さて、問題は今回教えてもらった動きができるようにするには、どんな練習をしたらいいのか、だ。次回の記事では、その練習方法となるドリルを紹介しよう。