【新城幸也インタビュー】僕がワールドチームにいられる理由
ジロ・デ・イタリア2023 第9ステージの個人TTを終えたその日に、最初の休養日を過ごすスカンディアノ近郊まで移動した新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)。
滞在先のホテルにて日本の記者対象のオンライン記者会見のあと、サイクルスポーツの独占インタビューに応じた。ヨーロッパプロ16年目、グランツール出場16回目のユキヤに、このジロでのアシストの仕事について聞いた
まずはジロの現時点で、バーレーン・ヴィクトリアスのチームメイト、総合上位にいるジャック・ヘイグと、ダミアーノ・カルーゾのどちらをどうアシストしているか教えて下さい。
「どちらも優先ですが、もともとエースはジャックです。ダミアーノは正直、放っておいて大丈夫なんです。ジャックもそうなんですが、『誰かをエースにする』って言わないといけないから、ジャックなんです。
性格上、ダミアーノはそうやってリーダーをやりたくない。ダミアーノのために、というプレッシャーを掛けられたくない。2年前のジロで総合2位になったときのように、チームのリーダーとして扱わない方が、彼としては気が楽なんです。
TTが速いからダミアーノが総合では(現時点で)前に来ている。山では二人が一緒の集団にいます。あとは山をどれだけ上れるかじゃないですか? 山で遅れちゃったら総合(表彰台)は諦めて、区間優勝狙いになることもあり得ます。
そうは言っても最後は(山岳)TTですから、どっちも確保していくと思います。毎日、遅れないようにして、どこかで攻撃を仕掛けるというよりは、遅れない作戦だと思います。
ジョニー(ジョナタン・ミラン)のマリア・チクラミーノは是が非でもという感じではなく、基本的に僕の仕事はジャックの総合のアシストがメインです」。
ほぼ毎日、どこかのタイミングでユキヤが集団の先頭に登場する。しかしそれは偶然でもなんでもなく、意図して前に上がってきているはずだ。ジョニーのアシストならスプリントポイントの前、ジャックのアシストなら山の上り口の手前、もしくは道が急に狭くなるような危険箇所の回避かもしれない。その手前数キロでガーミンが教えてくれるのか、それとも無線からの指示があるのだろうか?
「いえ、違います。たしかにガーミンは朝、スタッフに渡してコースマップを入れてもらいます。第8ステージのようにスタート50分前にチームバスが出発しなければならないような時はマップが入っておらず、上り口前の情報が無線頼りになり、道が狭くなるポイントを教えてくれなかったので埋もれました。
でも、基本的には前に上がるタイミングは他のチームも同じことを考えているから、距離(場所)じゃなくて雰囲気なんです。ザワザワザワ、となってきたら、こちらは『上がるか!』です」。
そのタイミングを判断するのは、ユキヤの勘なのだ。
「僕が(チームの中で)一番前にいるので、一番いいのは、後ろの人からは被せられるのがわかるじゃないですか、それを教えてくれるのがいい。それも本当に1秒の間。僕がパッと見た瞬間に行かないともう間に合わない」。
そしてユキヤがチームメイトを引き上げていく。
「要は、被せられないようにしなければいけない。被せられたら、(他のチームの選手を)一人入れたらもうダメなんです、その次の人も入れないといけない。被せられないように、壁を壁で叩いていかないといけない。
僕は、人を押しのけてジャックにここに入れと言って、ジャックが入ったらまた次のスペースを作りにいく。テトリスと一緒です。
もちろん僕は手を使っていないです。徐々に押していきます。そこにタイヤを入れたら転ぶという場所がある、そこにタイヤを入れさせないようにすればいいだけです。
僕がここにいることによって、ここはチームメイトだけのためのスペースになる。僕がここに入ったら、このスペースしかないけれど、僕がこっちに車輪を入れたら、このスペースは使えることになる。そうやって、どこに車輪を刺すか、一応は考えながら上がっていきます」。
「どこかが先頭を牽いて、その後ろで洗濯機がぐるぐる回っているとき」、とユキヤは右手を前に出し、左手はその後ろでぐるぐるかきまぜる仕草をしてみせた。「その洗濯機に入ると、洗濯の繰り返しになるんです。結局は洗濯機の方が脚は楽なんです。でもチームがバラバラになっちゃいます」。「だから僕は、」とユキヤは左手を右手の横にまっすぐ差し出した。「オリャー!っと別ラインで上がることが多い」。
それでも、ユキヤが連れて上がれるのは1人か2人だという。「僕はでかくないから。やってみればわかりますよ。大きい選手の後ろだとやはり楽です。幅もあるし」。
これができるユキヤをチームはさぞかし買っているだろうな、とつくづく思う。
「あとは、僕はできるだけ自分が死なないように行くので」。そう、無茶して突っ込んだスペースでは付いていくのが難しい。ユキヤのラインはその点でも付いて行きやすいのだろう。
「ごちゃごちゃになってから上がるのは不可能に近いんです。でも、一回下がってもいいんですよ、上がれればね」。
先頭に踊り出たユキヤは、役目を終えるとフェイドアウトしていく。あとは任せた、という感じだろうか。
「僕は常に先頭で張れないんです。5分500Wは出せない。僕が前にいられるのはそんなに長い時間じゃない。2分とかです。500Wを余裕で出せるヤツのそばで、僕は死に物狂いで500Wを出しています。死にそうです(笑)」。
アシストとしてチームに期待され、グランツールを走るユキヤ。
「人のために走るようになったのは、このチームに入ってからです。僕が成績を出せと言われて走っていたら、もうワールドツアーにはいないんじゃないですか。ワールドツアーだからこそいられるというか、この仕事があるから。よく逃げるプロコンの選手はワールドツアーではダメなんです。僕とは逆です。僕は逃げないけれど、ワールドツアーにいられる。役割が違うんです」。
ジロ・デ・イタリア公式サイト
Giro d’Italia 2023 | Official site (giroditalia.it)