猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第21回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第21回

鷲子山上神社。ここ迄のヒルクライムで良いパワーで踏めたのでこの表情。 名所も良いが…やはり坂が一番だ。

いよいよ人生初のブルベ300km挑戦の日がやってきた。今回は、前回のコラムで紹介した「ロングライド女子部」のメンバーと共に挑むことになる。
番組スタッフから聞くとブルベは準備が全てらしい。
そしてその準備を全て本人でやって欲しいと言われた。
ブルベの準備とは一体何をすれば良いのだろうか?

ルートを把握せよ

ブルベといえば地図読みだ。
私は近所にあるブックオフに駆け込んだ!
ブックオフは普段から破廉恥な写真集を小銭に変える事でお世話になっている(編集部注:原文ママ)。本の種類も豊富だ。
さっそく地図コーナーに行くと、東京都内の地図しかないではないか。

私が今回走るのは茨城、栃木、福島と3県にまたがる。
私は最も大きいと思われる新宿のブックオフまで足を伸ばした。
すると黒々と茨城県と書かれた表紙が輝いているではないか。
開くと栃木と福島の下の方までカバーしている。
さっそく購入し主催者側から貰ったルートを元に線を引いていく。

今回走るのは300km。
あまりにも交差点が多すぎる。
少し前までブルベの参加者はキューシートと呼ばれる交差点と距離が書かれた紙を自分で作成したらしいが、今ではサイコンのナビゲーションに全て任せるらしい。

私もサイコンに頼る事にするが、私はサイコンのナビゲーションにあまり良い印象が無い。
なぜなら、過去に番組の芸能人お接待ライドのロケでこのナビゲーションに振り回された事があるからだ。
自分が行きたい方向とは全く逆に案内されゲストライダーを疲弊させた経験がある。
そして今回も見事にこのサイコンに振り回される事になるのである。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第21回

愛車をブルベ仕様に。ホイールをゴキソに変更した。追い風だとペダルをこがなくても進む。ロングライドの強い味方だ

いざ、300kmへ出発

大した準備もできないまま。スタートを迎える。
主催者はPBPを完走している猛者達だ。
ブルベのコツを聞くととにかくクルクル回す事ですよ!と。
脚を残す長距離ライド特有のペダリングだ。

寒空の中、ロングライド女子部のメンバーと共に、300km制限時間20時間への旅がスタートした!
まずは最初の50km先のCPを目指す!

ブルベで準備の次に大事なのがペース配分だ。
主催の人に聞くと「早歩き」のイメージだと言う。
「歩き」だと遅いし、「走り」だと体力がもたないという。
いわゆる閾値の手前で走る超長距離の走り方だ。

閾値を越えると乳酸がたまり疲労が増し内臓も疲れてしまう。
閾値はパワーや心拍数でも測れるが、わかりやすいのは呼吸が乱れ出すのが閾値の境界線と言っても良いらしい。
私の閾値は、パワーで言ったら180Wぐらい。スピードで言ったら32kmぐらいだろうか。

息が上がらない時速30kmをキープしながらひたすら進む。
そしてペダリングにも気を配る。
どこかが痛くなり始めたらドミノ倒しのように負の連鎖で全身痛くなるので、最初のドミノが倒れないように慎重にペダリングを重ねる。

すると上りが現れる。
今回のコースは往路が上り基調で復路が海岸線の下り基調だ。
海岸線と聞くと強風のイメージがあるが、幸運な事にこの日の復路は追い風らしい。

疲労がMAXになる所で追い風!これはついてるぞ!
案外ラクにゴールできるのではないかと油断した瞬間、サイコンからけたたましく警告音が鳴る!!
ミスコースだ!!ルートから外れた!
なぜだ!地図どおり進んでいたではないか!?

なんと!電波が悪くGPSが繋がってなかったのだ!
本来のコースまで戻らねばないない。
幸いそんなにルートを離れなかったが、なかなかスリリングだ。

ルートを外れた事に気付かず走り続けたら完走は不可能だ。
なんだよ!!結局サイコン頼みではないか!?
これはやはり一筋縄では行かないと腹を括る。

50km消化し、何とか良いペースでPC1に辿り着いた。
しかしここでロングライド女子部の走り屋こと成田多喜氏が、命の次に大事なブルベカードを紛失している事が発覚!たった50kmでリタイアさせるわけにいかない!

同じく女子部の野村綾乃氏を先に行かせ、2人でカードを探しにルートを戻る。
幸い数km戻った所でカードを発見!!
親切な参加者が拾ってくれたのだろう。道の脇に置いてあった。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第21回

ブルベ前日の夕食。ステーキにご飯おかわり自由。喰い過ぎである。

サイコンのいたずら

しかしここからが一番大変だった。
先行する綾乃氏に追い付かなければならない。
一人で走らせ体力を消耗させるわけにはいかない。
閾値越えて220Wで踏む。

かなりのハイペースだが、タッキーこと多喜氏はついてくる。
聞くとFTP230Wらしい。私と9Wしか変わらない。
なかなかの健脚だ。

心拍を上げしばらくすると変な吐き気が現れた…おかしい。
今回はグリコローディングをしっかりしてきた…ハンガーノックになるはずがない。
何とかCP2手前で綾乃氏を発見!
ありがたい事に親切な集団に引いて貰っている。
参加者との連帯もブルベの魅力だろう。

PC2でしっかり昼食をとる。
なぜなら、ここからが一番の難所。次のPC3まで上り基調80km休み無しなのだ。
食べなきゃいけないが食欲が無い……なぜだ!?

私はふとバイクのフレームに目を止める。ボトルに入れたコーラでベトベトになっている。
これだ!!ハンガーノックを恐れてコーラを飲み過ぎていたのだ!
ボトルの中身をお水に変えたらスッキリンコ!カフェインの取り過ぎには要注意だ!

ここからは本格的なヒルクライムも始まる。
向かい風の上り、これは地味に体力を削られる。
そして長距離特有のマンネリ……飽きがやってくる。
この猛烈な「飽き」という波が何度も訪れる。

体だけでなく心も疲労するのがロングライドだ。
そしてそれは突然訪れた。
ピーピーピー警告音が山中に響く!まるで墜落寸前の飛行機のコクピットの様だ!
ルートは外れていない!なぜだ!

ついに私のサイコンが牙を剥くのであった……意思を持ったAIのように。

後半へと続く。

猪野 学 公式Twitter