藤村一磨が参戦! “ジュニア版ツール・ド・フランス” に見る、進化するU19カテゴリーのいま【前編】

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フランスで開催されたヴァルロメイ・ツール(UCI2.1/U19)に唯一の日本人選手として藤村一磨(宮崎県立都城工業高校)が出場。日本やアジアには存在しない高難度な5日間のステージレースで奮闘しながらも貴重な経験を積んだ。大きな目標である欧州プロをめざして、ステップアップを重ねている。

チームプレゼンテーション

毎朝スタート会場で行われるチームプレゼンテーション

 “ジュニア版ツール・ド・フランス” に挑んだ藤村一磨

7月12日から16日まで5日間の日程で、フランス東部アン県の山岳エリアを舞台にU19(ジュニア)カテゴリーのUCIレース「アン・ビュジェイ・ヴァルロメイ・ツール(以下ヴァルロメイ・ツール)」が開催された。今年で35回目の開催を迎えた本大会は“ジュニア版ツール・ド・フランス”と呼ばれることも多く、ヨーロッパの強豪チームだけでなく、今年はアメリカ、アジアからも参戦し、全29チーム、22カ国からの135選手が出走。そして日本からも南仏の名門チームVCラポム・マルセイユを母体とするクラブチーム「U19アカデミー・ラポム・マルセイユ・プロヴァンス(以下、ラポム・マルセイユ)」のメンバーとして藤村一磨が出走した。

タイムトライアルバイクを使用した37.9kmの本格的なチームタイムトライアルで幕開けし、起伏に富んだ101.4kmの第2ステージ、94.6kmの第3ステージ、厳しい山岳ステージで2級山岳山頂にフィニッシュの123.5kmの第4ステージ、そして2日前にツール・ド・フランスを迎えたばかりの超級山岳グランコロンビエールを駆け上がる87.9kmの第5ステージというステージ構成で、同地域に住む別府史之さんは「プロカテゴリーのツール・ド・ランよりも厳しいコース」だと断言する。

 

ヴァルロメイ・ツールで選手たちと会話を交わす別府史之さん

ヴァルロメイ・ツールで選手たちと会話を交わす別府史之さん

 

タイムトライアル能力を評価され、ラポム・マルセイユの出場メンバーに選出された藤村。同チームにとって、シーズンを通じてもっとも重要視する大会で、昨年大会で個人総合2位の成績を残したチームのエース、マキシム・ドゥコンブル(フランス)の個人総合優勝を狙っての参戦だった。そのプレッシャーに加え、藤村にとって、約38kmのチームタイムトライアルは全くの未知となる経験だったが、走り始めるとその不安はすぐに消え去る。ラポム・マルセイユは序盤に2選手が遅れるトラブルに見舞われたものの、藤村が期待以上の好走を見せ、最後までチームの歯車として活躍し無事にフィニッシュ。しかし4選手での走行ゆえ、14位という結果に肩を落としたが、「カズマはチームパフォーマンスに大きく貢献した!」と監督は藤村の走りを賞賛した。

 

チームTTを走る藤村一磨

4人での走行となったものの最後までしっかりと走り切った藤村一磨

TTTを走り終えた藤村一磨

藤村一磨が38kmの本格的なチームタイムトライアルを走り終えた

 

その後、第2、第3ステージは平均時速43kmを超え、終始ハイペースで展開する。“逃げが決まって集団が緩む”というロードレースお決まりの展開は見られず、上りも下りも平坦もすべてハイスピードで展開していった。第2ステージは落車の影響により遅れ、第3ステージは残り10kmの登坂区間で「脚はあったものの、集団内の位置が良くなく、先頭集団に残ることができなかった」と振り返った藤村、厳しい山岳ステージとなった第4、第5ステージは実力差を実感するレースとなったものの、力を出し切り無事にフィニッシュ。個人総合成績83位(+42分42秒)で5日間のステージレースを走り切った。

日陰でリラックスしながらレースのスタートを待つラポム・マルセイユ

日陰でリラックスしながらレースのスタートを待つラポム・マルセイユ

ヴァルロメイ・ツール

ロードレースのコースはすべてラインレース。街から街へ走り抜けていく

ヴァルロメイ・ツール

平均時速43kmを超えるハイスピードで毎日レースが展開した

第2ステージを走り終えた藤村一磨

第2ステージを走り終えた藤村一磨。集団の分裂により後方集団に残され、悔しさが残る

第4ステージの2級山岳フィニッシュへと向かう藤村一磨

第4ステージの2級山岳フィニッシュへと向かう藤村一磨

最終ステージのレーススタートを待つ藤村一磨

最終ステージのレーススタートを待つ藤村一磨

藤村一磨が区間86位で超級山岳グランコロンビエールにフィニッシュする

藤村一磨が区間86位で超級山岳グランコロンビエールにフィニッシュする

 

「今回は区間10位とか15位でフィニッシュしたかったですが、届きませんでした。第3ステージが一番近かったかなと思うんですけど、そこを逃してしまったのが良くなかったです。もうちょっと経験が必要ですし、練習とレースだったら出せるパワーが違うので、もっとコンスタントにレースに出たいと思いました。フランスでは1か月に3回とか4回レースがあります。もっと自分の限界に追い込むようなことをやっていきたいです」。

 

5日間のステージレースを走り終えた藤村一磨

U19世代最難関、5日間のステージレースを走り終えた藤村一磨

 

今年、U19の2年目(最終年)となる藤村は2005年生まれの17歳。水泳から自転車競技に転向し、高校から本格的に自転車競技に取り組み、高校1年のインターハイ・ロードレースで2位となり、一躍注目される存在になった。コロナ禍の影響により、U17でのヨーロッパ遠征は叶わなかったが、昨年から夏季休暇を利用し、フランスでレース修行。本場の環境を知り「U23のうちにヨーロッパでプロになる」という明確な目標が定まった。

初めてヨーロッパに来た昨年は「まず集団の密度が違いすぎること、日本では逃げてばかりだったけど、ヨーロッパではそもそも逃げさせてもらえないし、最初は前に上がるのも難しかった」と振り返る。ただ練習ではチームメートとの力の差を感じることはなく、さらに経験を積むために、もっと多くのレースに出てみたいと今季も日本での学業と並行しながらヨーロッパで活動する。ヨーロッパのレースは「距離やコースも日本とはまったく違う。展開も日本ではこんなにアタックが繰り返されるようなレースはないです。日本では自分でアタックをして、自分で苦しむ感じですが、ここでは他の選手のアタックに付いていくので苦しい。日本では終盤に少し組織的な動きはありますが、ここでは最初からチームで動いて逃げを乗せないと、後から集団を引かないといけなくなります。競技が違うというか、全てが違う感覚です」と話す。

日本との違いに戸惑うこともあったが、フランスでの生活にも慣れ、食事やトレーニングに問題もなく、今やチームメートからも愛される存在だ。そして滞在日数と比例するように順調にステップアップを遂げ、ヴァルロメイ・ツールの前週に開催されたフランスのアマチュアレースでは、山頂フィニッシュのステージで区間優勝。ヴァルロメイ・ツールの結果は思うようなものではなかったが、落車を回避し、初めての5日間、U19トップクラスのステージレースを無事に走り切ったことは、成長を実感する瞬間であり、ここでの経験は貴重な未来への糧になる。今後は8月上旬にイギリスで開催される世界選手権ロードレース男子ジュニアに日本代表として出場する。そこでの目標はトップ20。どんなレースになるか、17歳の奮闘に期待したい。

 

チームプレゼンテーションに少し緊張した面持ちで立つ藤村一磨

チームプレゼンテーションに少し緊張した面持ちで立つ藤村一磨

上位をめざして走り続けた藤村一磨

懸命に上位をめざして走り続けた藤村一磨。ところどころ石畳区間もコースには組み込まれる

チームミーティング

ステージ前に行われるチームミーティング。監督との距離も近く、率直に意見交換を行う

補給食としてライスケーキを受け取る藤村一磨

補給食としてライスケーキを受け取る藤村一磨

藤村一磨がレース後にチームメートとレースについて話し合う

藤村一磨がレース後にチームメートとレースについて話し合う

 

ギヤ規制撤廃によるハイスピード化などU19環境の変化

現在、藤村をはじめ、U19日本人選手のヨーロッパ派遣を積極的に行っているチームNIPPOの大門宏監督は、今回のレース内容を受け、以下のように話す。

「今年からU19でギヤ規制が撤廃されたことは、確実にU19のレース速度が上がる一因になっている。ワールドチームの選手並みの55Tをセレクトする選手もいるから、レースがスピードアップするのは必然的な流れ。大きなギヤのエスカレートはU19選手の成長を止める悪影響があると警笛を鳴らしている関係者もいるが、大きなギヤを使うメンバーがペースを上げれば、“育成ギヤ”では流れに乗れなくなるので、使用率は今後も増えていくだろう。

そんな時代の変化を背景に、現在ヨーロッパでは適応能力の高いU19選手だけに関心が集中する傾向があり、その状況に懸念を感じる。それは今のU19 レベルで対応できても、これからのU23でも同じペースで成長し続けるとは限らないから。以前だと2年間で選手の成長を見守る余裕があったが、今はU19であれ、半年で見定められてしまう傾向がある。つまり適応力があり、成長が早い選手のほうが圧倒的に有利になっていることに戸惑いを感じる。

これらヨーロッパで起きている変化や、日本とグローバルスタンダードの差を考えると、今回の藤村選手の走り、4月の長島慧明選手(京都北桑田高校)の走りは驚異的に思えた。日本とヨーロッパとの違いを挙げるなら、単純にレース距離は2倍から3倍、コースプロフィールは桁違いに難易度が高く、タイムトライアルバイクを使用したレース数も多い。さらに出場選手数やチーム数は倍以上、伝統的なチームカーの有無など挙げ出したらキリがない。日本のそれは、規則正しい学校教育に付随した健全なスポーツ活動においての“似た競技”であって、世界のトップと比べてレベルが低いとか高いとかというモノサシで語れる問題ではない。また将来を占う意味でも、グランツールや一部のトップ選手だけでなく、日本の若い選手が直面するこのような状況に、日本のロードレースファンの方々が関心をもつことも大切で、そのような環境が、ファンの方が熱望する“ワールドツアーで活躍する日本人選手”を育てる大事な土壌になると思う」。

 

レース後に藤村一磨とレース内容について話し合う大門監督

レース後に藤村一磨とレース内容について話し合う大門監督(NIPPO)